最近のGDP統計に対する論調とそれに対する当方の考え方

~最近のGDP統計に対する論調とそれに対する当方の考え方~

平成12年6月
経済企画庁経済研究所

 最近、各方面からGDP統計に対して数多くの指摘がなされている。これらは、日本経済の現況やその把握についての関心をより広く喚起するものであることから歓迎すべきものであるが、中には、GDPの概念や推計方法の認識不足や誤解に基づくものも少なくないように思われる。

 これらの指摘は次の5点に集約できるであろう。すなわち、(1)数値のブレが大きく、季節調整方法にも問題があるのではないか、(2)データが度々大幅に改訂される、(3)IIP(鉱工業生産指数)などの月次の生産側統計との乖離が大きい、(4)IT(情報技術)関連投資が固定資本形成から除外されている、あるいは単身者世帯の消費支出が含まれないなど、経済情勢の変化が反映されていない面がある、(5)デフレータが品質の変化を反映したものになっていないため、実質値が過少評価されているのではないか、などである。

 以下では、これらについて、個々に現状の推計方法について述べることとする。

(1)数値のブレ、季節調整方法について

 数値のブレが生じる可能性としては、1)実態経済そのものが大きく変動している、2)基礎統計にバイアスがあり、経済の実態を正確に反映していない、3)季節調整、の3点があると考えられる。

 このうち季節調整について述べると、我が国では米国センサス局のX-11を利用している。なお、センサス局で新たに開発されたX-12-ARIMAについては、例えばGDPの主要項目である民間最終消費支出について、統計的には閏年効果や曜日効果が検出されなかったこと、等から導入を見送ることとし、97年11月にこの検証結果を公表しているところである。

 要するに、統計はより安定的であることが、必ずしもよりよいというわけではない。我々は、速報性と正確性の両立をめざして、統計作成を行っている。

 (注1)季節調整値の安定性についてもX-12-ARIMAを利用するとX-11よりも安定性が増す系列と不安定になる系列が混在することも理由としてあげられる。

(2)データの改訂について

 GDPデータについては、毎年12月に確報推計と呼ばれる年次推計によって、QEの計数の改訂が行われている。この確報推計にあたっては、主に需要側統計を用いて推計しているQE推計に対し、年1回入手可能なカバレッジの広い供給側統計を基礎として商品毎に積み上げるコモディティーフロー法を採用している。これは、QEよりも速報性という点では劣るものの、精緻で精度の高い情報に基づいて行うものである。(注2)

 このうち、まず基礎統計については、我が国の月次の供給側統計には(3)で述べるように制約も多く、速報性が要求されるQE推計段階では情報量の豊富な月次または四半期の需要側統計を利用することが、現行基礎統計の整備状況から最善の策であると考える。なお、たとえば民間最終消費支出の推計において、自動車、医療等について供給側統計を利用しているように、現状でも利用可能でより適切と認められるものについては、供給側統計を利用している。

 また、季節調整法について、確報推計の際には、昭和30年のデータから4四半期(1年)期間を延長して季節調整をかけなおす。このため、過去に遡って計数が改訂されることになる。

 なお、四半期別実質GDPのQEから確報への改訂状況をみると、前期比では日本の改訂幅が米国を上回るが、実額ベースでは日米間に大差はない。

(注2)速報推計は、主に需要側統計を利用して行われているが、供給側統計の情報も織り込まれている。より具体的には、


  • 速報推計は供給側統計から推計された前年同期値を延長することによって推計されている。

  • 一方、その延長推計で利用する前年同期比については、一般的に需要側統計から推計される。

(3)生産側統計との乖離について

 生産側統計とQEについては、


  1. QEは、主に需要側の統計データを用いて推計するのに対し、生産側統計は供給側の統計であることや、QEは付加価値ベース、生産側統計は物量ベースであるという違いがあること、

  2. 鉱工業生産指数等の生産側統計は平成7年固定ウェイトによる加重平均として推計されることから、現時点のウェイトから乖離している(QEではウェイトが足許まで変更されている)、

  3. 特に消費者向けサービスについては、経済全体をカバーするデータに乏しい、

などから、両者の動きが必ずしも一致するとは限らないのである。

(4)経済情勢の変化とGDP統計について 

 IT関連については、現行の国民経済計算体系においては、企業によるコンピューター・ソフトウェアの購入は中間消費として計上されている。ただし、コンピューター本体と一体化したソフトウェアについては、その購入分は計算機本体と併せ設備投資として記録されている。

 なお、本年10月末を目途としている新しい国民経済計算体系である93SNAへの移行時には、企業によるコンピューター・ソフトウェアの購入のうち受注開発分を、計算機本体と一体化したソフトウェアに加えて、新たに設備投資として計上する予定である。一方、企業による汎用ソフトの購入、ソフトウェアの自社開発については設備投資額を把握するための基礎資料に制約があるという理由から、従来通り中間消費として記録することにしている。

 また、民間消費の推計にあたっては、1世帯当たりの消費支出については、非農家一般世帯を対象とする『家計調査』や農家世帯の統計を利用している。一方、世帯数については単身世帯も含めて推計を行っている。

(5)デフレータについて

 我が国のGDP統計におけるデフレータについて、特に投資デフレータについて品質の変化を反映していないことから、実質値が過少に評価されているという意見が見受けられる。しかしながら、投資デフレータの推計の基礎となっている卸売物価指数においては、すでに基本的に品質調整が行われている。

 また、民間消費デフレータの推計においても、例えばパソコンのデフレータのように、一部で卸売物価指数を用いている。

 経済情勢の変化は非常に速いが、我々はその変化に対応した統計作成のために、今後とも不断の努力を行っていく所存である。具体的には「GDP速報値検討委員会」を設置し、今後公表予定の単身者世帯の四半期データの利用可能性をはじめ民間最終消費支出の推計方法、季節調整法の再評価、ソフトウェアの設備投資への計上など93SNA移行に関する速報値での対応、などについて鋭意検討を行っていくこととしている。

 各方面からの意見には、我々が採用している概念や方法を再検討する際に役立つ点があり、感謝する次第である。