1.SNAの見方

(1)SNAとは

 SNAとは、System of National Accountsの略称であり、「国民経済計算」または、「国民経済計算体系」と訳されています。そして、93SNAとは、1993年に国連が加盟各国にその導入を勧告した国民経済計算の体系の名称です。
 この国民経済計算、すなわちSNAは、一国の経済の状況について、生産、消費・投資といったフロー面や、資産、負債といったストック面を体系的に記録することをねらいとする国際的な基準、モノサシです。言い換えるならば、企業の財務諸表作成における企業会計原則に相当する一国経済の会計原則が、国民経済計算、すなわちSNAであるわけです。
 これまで、日本をはじめ世界の多くの国がSNAという基準に従って、所得水準や経済成長率などの国際的な比較を行い、各国の経済の実態を明らかにしてきました。このため、SNAは、世界各国が共通の基準に基づいて作成することが必要です。

(2)SNA体系の概要

 では、SNAが一国全体における経済活動をどのように描いているかについて概観しましょう。

1)生産と所得の分配

 私たち国民一人一人がより快適な日常生活を送るためには、様々なもの-財貨・サービス-が必要です。最低でも自己の生命を維持するための衣食住という基本的なものの消費が欠かせません。
 これに応えるために企業や政府は、一定の技術の下で各種の生産要素(労働、資本ストック、土地)を組合せて使用し、原材料(中間財)を投入して財貨・サービスを産出しています。
 産出された財貨・サービスは、企業が原材料として用いる時の消費である中間消費、各種の国内最終需要(家計最終消費支出、民間企業設備等)および輸出向けに販売されます。
 他方、生産活動の過程で生み出された付加価値(産出額-中間投入額(企業の原材料に相当))は固定資本減耗と純間接税(93SNA上の正式な用語は、「生産・輸入品に課される税(控除)補助金」。以下同じ。)を除いたあと、各生産要素の間で報酬として配分されます。

図1

2)所得の受取・処分と資本の蓄積・調達

 生産要素を提供した各主体は、配分された報酬から所得税等の直接税(93SNA上の正式な用語は、「所得・富等に課される経常税」。以下同じ。)や社会保険料等を一般政府に納めるとともに、一般政府から年金等の給付を受けます。また、各主体間で配当や利子等の受払いが行われます。このようにして再配分が行われたあとの所得(可処分所得)をもとにして、各主体は消費するために財貨・サービスを購入し、また、住宅、企業設備、土地等の実物資産を購入します。
 このような支出の結果、資金に余剰が生じた主体は、預貯金、公社債、株式等の金融資産に資金を運用します。逆に、資金が不足した主体は、金融機関からの借入や公社債・株式の発行等により資金を調達します。
 SNAでは、各経済主体が行う様々な取引を経常取引と資本取引に大別し、前者の経常取引は以下で説明します所得支出勘定に、後者の資本取引は資本調達勘定に記録します。

図2

(1)所得支出勘定(制度部門別)
 各制度部門(SNA上は、非金融法人企業、金融機関、一般政府、家計、対家計民間非営利団体より構成)ごとに、経常取引すなわち第一次所得の受取、再分配所得の受取と支払および消費支出が複式簿記の形式に従って記録されます。
 まず、第一次所得の受取とは、国内の生産活動によって生み出された雇用者所得(93SNA上の正式な用語は、「雇用者報酬」。以下同じ。)と営業余剰(93SNA上の正式な用語は、「営業余剰・混合所得」。以下同じ。)および財産所得に加え、一般政府にとっての受取となる純間接税から構成されます。受取側には、更に、海外から受取った要素所得の純計額(受取-支払)が計上されます。
 一方再分配所得(受取と支払)とは、次の3つのカテゴリーに分類することができます。第一は直接税、社会負担(社会保険料等)で、これは家計や企業から一般政府に再配分される所得です。第二は、社会保障給付と社会扶助給付(生活保護費等)で、これは一般政府から家計等へ再分配される所得です。第三は、その他の再分配ですが、具体的には損害保険の保険金や、保険料(93SNA上の正式な用語は、それぞれ、非生命保険金、非生命純保険料)、国際協力、無基金雇用者福祉給付(一部の公務災害補償等)等があげられます。上記3つのカテゴリーに分類されるいずれの再分配所得についても、ある経済主体(例えば家計)の支払は、他の経済主体(例えば一般政府)の受取に計上されます。
(2)資本調達勘定(制度部門別)
 各制度部門は、様々な形態で資金を調達して実物資産(住宅、企業設備、土地等)と金融資産(預貯金、公社債、株式等)に投資・運用しますが、その調達と投資・運用の間には次の恒等式が成立します。
(自己資金の純増額)+(金融市場から調達した資金の純増額)=(実物投資)+(金融資産の純増額)
 また、SNAでは、制度部門別毎に、実物投資と自己資金の純増額(貯蓄+固定資本減耗+他部門からの資本純移転)との間のバランス関係を計数的に把握するとともに、不足あるいは過剰となった資金がどのようにして金融市場で調達あるいは運用されたかを実証的に明らかにするために、資本取引を実物取引と金融取引に区分して記録しています。
 前者の実物取引の勘定は貯蓄・投資バランス等の分析に、後者の金融取引の勘定は資金循環や資産選択等の分析に必要なデータを提供するよう設計されています。

(1)実物取引 蓄積(93SNA上の正式な用語は、「資産の変動」)側に総固定資本形成(企業設備投資、住宅投資等)、在庫品増加および土地の購入(純計)が計上されます。自己資金の純増額を示す調達(93SNA上の正式な用語は、「貯蓄・資本移転による正味資産の変動」)側には、その制度部門が自前で確保した財源である貯蓄(所得支出勘定で把握)と固定資本減耗および他の制度部門から再分配された財源である資本移転が計上され、バランス項目(蓄積側と調達側の差)として貯蓄投資差額が蓄積側に計上されます。

(2)金融取引 金融取引については、まず運用(93SNA上の正式な用語は、「資産の変動」)側に金融資産の純増額が資産の形態別(現金通貨・預金、債券、売上債権等)に計上されます。他方、調達(93SNA上の正式な用語は、「資金過不足および負債の変動」)側には資金調達(負債の純増額)が調達の形態別(債券、株式、借入金、買入債務等)に計上されます。

3)制度部門別貸借対照表

 各経済主体は様々な資産と負債からなるストックを保有しています。これを制度部門別に見たものが制度部門別期末貸借対照表です。
 この勘定では、資産側に非金融資産(在庫、固定資産からなる生産資産、土地、地下資源、漁場からなる非生産資産)および金融資産(現金・貯金、株式等)を計上しており、総負債・正味資産側には金融の負債およびバランス項目となる正味資産を計上しています。
 なお、各制度部門の正味資産は(非金融資産)+(金融資産)-(負債)として定義され、一国全体の正味資産は国富とも呼ばれています。
 下図のとおり、資本調達勘定、調整勘定を明示的に取り込むことによって、フローの勘定とストックの勘定が整合的に連結しています。

図3
図4