経済分析第194号経済分析第194号(特別編集号)
研究報告会と経済社会総合研究所の概要
※エディトリアル及び論文本文はすべて英語である。
(要旨)
(論文)
サービス産業におけるデフレーターと実質付加価値の計測
サービス産業の生産と価格の計測にあたっては、製造業に関する計測とは異なる様々な理論的・実践的困難が伴う。こうした困難は、公共部門など一部のサービスで市場メカニズムが十分に機能していないことに起因するだけでなく、そもそもサービスの多くが無形で、その種類や質が多用であることにも起因する。例えば、非市場サービスと呼ばれる分野ではこれらの計測が難しい。政府が提供する学校教育のような公的サービスでは、市場価格データが得られないことが多い。また、医療サービスでは、価格データは存在するが、政府による規制や情報の非対称性のために、価格と消費者が得る便益の間に大きな乖離が生じている可能性が高い。市場サービスにおいても、計測はしばしば困難である。例えば商業では、商業サービスの価格にあたるマージン価格(商品1単位あたりの販売価格マイナス仕入価格)を、サービスの質が異なる可能性がある取引形態毎に把握し、この情報を使ってマージン価格指数を作成することは難しい。本論文では、日本と米国をはじめとする他の先進諸国との間で、サービス産業の生産と価格の計測方法を比較し、計測方法の違いがTFP上昇などサービス産業におけるパフォーマンス指標にどのような影響を与えているかを検討する。特に、日本で投入=産出アプローチが採用されている建設業と、デフレーターとしてマージン価格ではなく商品販売価格が使われている商業に焦点を当てて国際比較を行なう。また、日本の教育と医療について、実質生産量を直接計測するアプローチを試みる。
小売業における新業態参入と大型店舗の規制緩和の厚生評価
本研究は、我が国のサービス業で大きなシェアを占める小売業において、新業態の参入や参入規制の緩和が、消費者の経済厚生に与えた影響の測定を試みるものである。1990年代から2000年代にかけて、日本の小売業は二つの業態のシェア拡大という劇的な変化に直面した。一つは、大型店への規制緩和により拡大したスーパーマーケットであり、もう一つは独自のサービス品質と効率的なオペレーションを行うコンビニエンスストアである。本研究では、これらを含めた小売業内の業態間で価格やサービス品質が異なることを考慮した需要関数を推定し、消費者余剰の変化を測定した。その結果、1990年代と2000年代の消費者余剰の変化は、主に価格とサービス品質の変化によって説明され、特に価格の寄与が大きいことが明らかになった。規制緩和は、小売店の価格水準の低下を通し、消費者余剰へ影響していると考えられる。
日本の小売業の成長におけるサービスの質と製品多様性の貢献
本論文では、小売業を例に、サービスの質が日本のサービス産業の成長にどれだけ貢献しているのかを検証する。具体的には、小売企業間の売上規模の違いのうち、製品多様性を含むサービスの質の違いに起因する割合はどの程度か、質を考慮した価格指数を用いると小売企業間の実質産出額の違いはどう変化するかを検討する。分析手法としては、小売企業毎の商品バーコード・レベルの購買履歴データを用いて、質のパラメーターを含む消費者需要の構造モデルを推計する。その際、ベンチマーク財を設定して質のパラメーターを標準化することで、サービスの質の貢献を製品自体の質から分離して評価する。検証の結果、小売企業間の売上規模の違いの57%は企業レベルのサービスの質、26%は製品多様性によるものであること、また、質を考慮しない従来型の価格指数では、小売企業間の実質産出額の違いは4分の1程度過少評価されることが明らかになった。
学術研究における集積とネットワーク
研究活動は経済成長の源泉である。その研究活動を効率的に推進するため、本稿では科学研究の成果の決定要因を分析することにより、質の高い研究が生み出されるメカニズムを明らかにした。分析で取り上げた要因としては、集積の利益やネットワーク効果といった外部性、稠密性や多様性といった研究ネットワークの構造と特性、発表論文の量や質で測った共著者の属性等が挙げられる。さらに本稿は、研究の質についての新たな指標を複数導入しており、学術研究の質の評価尺度についても新たな貢献を行っている。分析結果によれば、研究活動の集積及びネットワーク効果が観察された。この外部性は当該研究者から離れると共に逓減の度合いが大きくなるが、海外の研究者との共同研究においてはその限りでない。また、ネットワークの特徴に関して、多くの論文を執筆した研究者や研究プロジェクトのリーダー経験のある研究者との共同研究は、研究者の業績の量を増加させるが、質の向上には結びついていない。研究の質を向上させるのに有効なのは、質の高い研究を行っている研究者との共同研究であることが示唆された。
本号は、政府刊行物センター、官報販売所等にて刊行しております。
全文の構成
(エディトリアル)
Measurement and Analysis of Service Sector Growth(PDF形式 51.7 KB)
(サービス産業における成長の計測と分析)
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1Kyoji FUKAO
(論文)
Measurement of Deflators and Real Value Added in the Service Sector(PDF形式 801 KB)
(サービス産業におけるデフレーターと実質付加価値の計測)
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131.Introduction
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162.Construction
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203.Wholesale and Retail
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234.Education and Health Care
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405.Public Administration and Defense, Compulsory Social Security
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416.Conclusion
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42References
Welfare Assessment of Entry of New Retail Formats and Deregulation for Restriction on Large Retail Scale Stores in Japan(PDF形式 575 KB)
(小売業における新業態参入と大型店舗の規制緩和の厚生評価)
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471.Introduction
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492.Background
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523.Model
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544.Data and Estimation Methodology
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585.Estimation Results
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606.Discussion
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607.Concluding Remarks
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61References
The Contribution of Quality and Product Variety to Retail Growth in Japan(PDF形式 486 KB)
(日本の小売業の成長におけるサービスの質と製品多様性の貢献)
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671.Introduction
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692.Data
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713.Model
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814.Structural Estimation
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865.Estimation Results
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906.Conclusion
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91References
Agglomeration and Networking in Academic Research(PDF形式 742 KB)
(学術研究における集積とネットワーク)
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951.Introduction
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982.Literature Review
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1013.Data and Variables
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1054.Descriptive Statistics and Data Analysis
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1155.Econometric Analysis
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1216.Conclusion
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122References
研究報告会と経済社会総合研究所の概要(PDF形式 97.2 KB)
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