経済分析第198号経済分析第198号(ジャーナル)

平成30年12月
(論文)
地方財政健全化指標における相互依存関係の実証分析
広田 啓朗(武蔵大学経済学部教授)
湯之上 英雄(兵庫県立大学経済学部准教授)
地方基金の積立要因に関する計量経済分析
—基金残高は自治体の効率化努力によって積み上がったのか—
前田 出(豊橋市役所)
夫の家事・育児参加と妻の就業決定
—夫の働き方と役割分担意識を考慮した実証分析—
鶴 光太郎(慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
久米 功一(東洋大学経済学部総合政策学科准教授)
得意科目がその後の労働時間・賃金に及ぼす影響のジェンダー差
参鍋 篤司(流通経済大学経済学部准教授)
垂見 裕子(武蔵大学社会学部教授)
(資料)
ESRI 国際コンファレンス
「より良い政策形成のためのより良い計測」(概要)
および景気動向指数に関するセミナー(概要)
編集 経済社会総合研究所

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

地方財政健全化指標における相互依存関係の実証分析

武蔵大学経済学部教授/広田 啓朗

兵庫県立大学経済学部准教授/湯之上 英雄

本稿では、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(地方財政健全化法)において定められた財政健全化4指標についてFixed effect SUR モデルを用いて、財政指標間の相互依存関係分析することで財政ルールへの抵触を回避するような調整がおこなわれていないかどうかを検証した。また、本稿では、地方財政健全化法では監視対象となっていない、行政キャッシュフロー計算書から求められる財務指標も用いて分析をおこなった。分析により、実質赤字比率と将来負担比率の間や、連結実質赤字比率と将来負担比率の間は、統計学的に有意な負の相関関係が認められた。また、地方財政健全化法の監視対象とならない、積立金等月収倍率、実質債務月収倍率、行政経常収支率との相関関係を、財政健全化4指標と合わせてみることで、財政ルールに抵触しない範囲での会計調整がおこなわれている可能性を検証した。分析結果によると、財政健全化4指標は、全国的に改善傾向にあるものの、フロー指標である実質赤字比率と連結実質赤字比率の改善は、積立金等を取り崩すことによって達成されている可能性があることが明らかになった。

JEL Classification Codes:H77, H72

Keywords:財政ルール、地方財政健全化指標、財政赤字


地方基金の積立要因に関する計量経済分析
—基金残高は自治体の効率化努力によって積み上がったのか—

豊橋市役所/前田 出

本稿の目的は、経済財政諮問会議等で議論が交わされている近年の地方基金残高の累増について、その要因は何なのかという問いに答えることにある。批判的な立場からは、国が借金をして地方交付税を措置する中で自治体が自らの基金に余剰資金をため込んでいるのではないかという問題提起がされ、それに対し地方側は、将来への備えとして行革等の効率化努力によって積み立ててきた結果であると主張する。果たして、それらの批判や主張に実証的根拠は見出せるのであろうか。

そこで、東京都特別区等を除く市町村のパネルデータを用いて、確率的フロンティア分析による非効率性指標を導出した上で、基金残高の増減額を被説明変数とし、自治体の「効率化努力」を表す非効率性指標の差分等を説明変数に置いた回帰分析を行う。回帰分析では、自治体における実情の違いを反映させるため、東日本大震災の被災自治体とそれ以外の自治体、財政力指数別などに応じてグループ分けしている。

分析の結果、以下の点が明らかになった。まず、基金残高の累増は、自治体の「効率化努力」が一要因であったことが認められる。ただし、東日本大震災の被災自治体においては、震災復興に係る国からの交付金等によって、効率性は低下しても基金が積み上がっている可能性がある。また、財政力指数の高いグループと低いグループを比較すると、「効率化努力」が基金増加に寄与する程度は前者の方が高く、後者については地方交付税収入が基金の増加要因になっていた。以上の結果は、国からの財政移転や自治体の「効率化努力」が複合的な要因となって地方基金の増加に作用したことを示唆するものである。

JEL Classification Codes: H72, H77, H79

Keywords: 地方基金、効率化努力、地方交付税


夫の家事・育児参加と妻の就業決定
—夫の働き方と役割分業意識を考慮した実証分析—

慶應義塾大学大学院商学研究科教授/鶴 光太郎

東洋大学経済学部総合政策学科准教授/久米功一

中長期的な労働力不足が懸念される中、女性の活躍推進が進められている。その一方で、男性を対象とした働き方改革は道半ばであり、男性の家事・育児参加や意識の変革が求められている。こうした状況に鑑みて、本稿では、夫の家事・育児時間が、妻の就業を促すか否かについて実証的に分析した。その結果、両者の関係には内生性が存在するが、夫の働き方や性別役割分業意識を考慮してもなお、夫の家事・育児が妻の就業に正で有意な影響を与えることがわかった。より具体的には、第一に、夫の家事・育児時間は、妻の就業確率に有意に正に影響していた。第二に、妻の就業には、夫の家事・育児参加、親との同居、保育園利用といった「日常的なサポート」がより重要であることがわかった。第三に、夫の家事・育児時間に対して、限定的な働き方(特に職務、勤務地限定)の選択が正に、「妻は家を守るべき」という性別役割分業意識が負に影響することが示された。これらの結果は、既婚女性の就業を促すためには、女性の育児休暇利用や保育園利用のサポートに加えて、夫の家事・育児参加も有効であり、そのためにも夫の多様な働き方の推進や役割分業意識の変革が求められることを示唆している。

JEL Classification Codes:J12, J16, J22

Keywords:既婚女性、就業、家事・育児、柔軟な働き方、性別役割分業意識


得意科目がその後の労働時間・賃金に及ぼす影響のジェンダー差

流通経済大学経済学部准教授/参鍋 篤司

武蔵大学社会学部教授/垂見 裕子

15歳時点での得意科目が及ぼすその後の労働時間、賃金への影響を、ミクロ・クロスセクション・データを用いて男女別に推計した。

出身大学のレベルや学科等の学歴、肥満度や婚姻状態、年齢、勤続年数、就業形態、勤務先組織の規模、産業等多くの要因をコントロールしても、女性は体育が得意であるとした人の労働時間は長く、また賃金も高くなる傾向がみられた。そしてやや弱いながらも、英語が得意であることも女性の賃金を高めていることが観察された。一方、男性では、得意科目が芸術であると労働時間が短くなっており、英語、社会、数学の順で、それらが得意である人の賃金は高くなっていた。

体育が得意であったことの賃金への正の効果は、女性にとって、体力があること、男性社会・競争社会に臆せず入っていける選好を持っていること、及びその相乗効果を示しているものと考えられる。また、学校教育における隠れたカリキュラムの影響や、各科目を得意とすることの意味についても考察した。

JEL Classification Codes:I24, J3, J16

Keywords:女性労働、教育、隠れたカリキュラム


(資料)
ESRI国際コンファレンス
「より良い政策形成のためのより良い計測」(概要)および景気動向指数に関するセミナー(概要)

編集 経済社会総合研究所

日時:
平成30年7月31日(火)ESRI国際コンファレンス
8月1日(水)景気動向指数に関するセミナー
場所:
アジア開発銀行研究所大会議室(霞ヶ関ビルディング8階)

政策形成の観点から、経済の状況を包括的かつ正確に把握することが重要となっている。

当研究所では、経済のデジタル化、サービス化等が進展するなかでの、計測の現状や課題、対応策等について論じることを目的として、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスおよび景気動向指数に関するセミナーを開催した。


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きますにて刊行しております。

全文の構成

(論文)

地方財政健全化指標における相互依存関係の実証分析(PDF形式 1.14 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

広田 啓朗・湯之上 英雄

  1. 3
    1.はじめに
  2. 5
    2.財政ルールとしての地方財政健全化法
  3. 7
    3.推定方法
  4. 10
    4.データ
  5. 12
    5.推定結果
  6. 19
    6.おわりに
  7. 20
    参考文献

地方基金の積立要因に関する計量経済分析
—基金残高は自治体の効率化努力によって積み上がったのか—(PDF形式 1.34 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

前田 出

  1. 24
    1.はじめに
  2. 26
    2.地方基金の累増を巡る議論
  3. 28
    3.自治体の非効率性と基金との関係
  4. 33
    4.基金の積立要因に関する検証
  5. 44
    5.結び
  6. 48
    参考文献

夫の家事・育児参加と妻の就業決定
—夫の働き方と役割分業意識を考慮した実証分析—(PDF形式 0.99 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

鶴 光太郎・久米 功一

  1. 52
    1.はじめに
  2. 52
    2.先行研究
  3. 56
    3.データ
  4. 58
    4.推定式
  5. 60
    5.推定結果
  6. 68
    6.政策的インプリケーション
  7. 69
    7.結論
  8. 69
    参考文献

得意科目がその後の労働時間・賃金に及ぼす影響のジェンダー差(PDF形式 897 KB)PDFを別ウィンドウで開きます

参鍋 篤司・垂見 裕子

  1. 74
    1.はじめに
  2. 74
    2.データ
  3. 79
    3.得意科目と労働時間
  4. 84
    4.得意科目と賃金
  5. 86
    5.労働時間および学校体育におけるジェンダー差異
  6. 88
    6.数学が得意科目であることと収入の高さの関係
  7. 89
    7.結果についての議論とまとめ
  8. 91
    参考文献

(資料)

ESRI国際コンファレンス
「より良い政策形成のためのより良い計測」(概要)
および景気動向指数に関するセミナー(概要)(PDF形式 1.65 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

編集 経済社会総合研究所

  1. 95
    基調講演:先進国における計測上の課題 米国の所得・消費動向から学ぶ
  2. 99
    セッション1:景気循環は世界金融危機後に変化したか、それは景気基準日付にどのような影響をもたらすか
  3. 107
    セッション2:サービス業・デジタル経済の成長は新たな計測上の課題を生み出しているか
  4. 114
    セッション3:より良い生産性の計測のために何が出来るか
  5. 119
    セッション4:「より良い政策形成のためのより良い計測」に関するパネルディスカッション
  6. 126
    景気動向指数に関するセミナー
  7. 134
    (参考)発言者一覧

経済社会総合研究所の概要と実績(PDF形式 661 KB)PDFを別ウィンドウで開きます

  1. 135