ESRI Discussion Paper No.390 わが国企業のESGスタンスと海外現地法人のパフォーマンス

2024年3月
安井 洋輔
内閣府経済社会総合研究所研究協力者、株式会社日本総合研究所主任研究員
北辻 宗幹
内閣府経済社会総合研究所研究協力者、株式会社日本総合研究所研究員
増島 稔
内閣府経済社会総合研究所顧問、SBI金融経済研究所株式会社研究主幹・チーフエコノミスト
プラヴァカル・サフー
経済成長研究所教授
橘 永久
千葉大学大学院社会科学研究院教授

要旨

 本稿では、2030年までに地球規模で持続可能な開発目標(SDGs)の達成が求められていることを踏まえ、高所得国の多国籍企業が、環境・社会・ガバナンス(ESG)へのスタンスを変化させたときに、低所得国に立地する同企業の海外現地法人のパフォーマンスが変化するかについて検証する。
 このために、わが国の上場企業におけるESGスコアと、上場企業の中核企業とその海外現地法人における財務データ等を結合したパネルデータを構築し、ESGスコアの変化と低所得国に立地する海外現地法人の労働生産性、賃金、雇用の伸びとの関係を明らかにするために固定効果モデルを推計した。その結果、ESGスコアの改善は、雇用や賃金には影響を与えない一方、労働生産性には正の影響を与えることが分かった。特に、社会スコアの構成項目であり、企業の公正競争や汚職防止に関するスタンスを示すコミュニティ・スコアの改善の影響が大きいことが分かった。
 この背景には、低所得国では高所得国よりも腐敗や汚職が散見される中、高所得国の中核企業が公正競争や汚職防止を重視することで、海外現地法人がレント・シーキング活動を減らし、経営資源を生産性を高める方向に活用できることが考えられる。この結果を踏まえると、高所得国の多国籍企業が公正競争・汚職防止へのスタンスを強化し、低所得国の政府もそうしたスタンスの外国企業による直接投資を優先的に受け入れていくことは、グローバルなSDGsの達成に寄与することが示唆される。


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全文の構成

  1. 1 Introduction
    page2
  2. 2 Data and Empirical Design
    page6
  3. 3 Estimation Results
    page14
  4. 4 Discussion
    page22
  5. 5 Conclusion
    page27
  6. References
    page28