ESRI Discussion Paper No.341 構造変化の下での景気循環の動向:「定型化された事実(Stylized facts)」の再検証
- 浦沢聡士
- 内閣府経済社会総合研究所
要旨
一般に、「景気」と失業率や物価といった「マクロ経済変数」との関係から見出される景気循環の基本的な特性(「定型化された事実」)については、一定程度普遍的と考えられる。一方で、経済に構造的な変化が生じた場合などには、その影響を受けてそうした特性にも変化がみられると指摘できる。景気循環の特性にどのような変化が生じたかを明らかにすることは、適切な景気判断を行い、また、効果的な経済政策の企画立案を行っていく上で、極めて重要である。
我が国経済については、2000年代に入り、供給面では少子高齢化が進展する中で生産年齢人口の減少が定着する一方、需要面では慢性的な需要不足を背景にゼロ金利やデフレの持続がみられた。経済構造をみてもサービス化の一層の進展とともに、労働市場では賃金の低下、非正規雇用者の拡大、また企業部門では貯蓄の高まり、さらに、国外に目を向ければグローバル化の進展など、様々な構造的な変化を経験してきた。このような経済の構造的な変化の下で、景気循環の特性にはどのような変化が生じているであろうか。
本研究では、まず、経済に構造的な変化が生じる下での景気循環の動向を分析するため、日本経済に構造変化が生じたと考えられる時期を2000年前後と特定した上で、GDPの需要項目に加え、労働・雇用、賃金、物価、金利、マネー、金融市場、海外経済等の多岐に渡る分野の60以上のマクロ経済変数を基に、構造変化の前後で、景気循環の特性に変化がみられた分野、また、変化がみなれなかった分野を明らかにした。
その上で、次に、特に顕著な変化が観察された企業による労働投入の調整メカニズムについては、経済の構造やショックが時間とともに変化するといったより現実的な分析枠組みの下、時変パラメータVAR(time-varying parameter VAR)モデルを用いた分析を行った。その結果、景気の変動に応じた、企業による所定内労働時間を中心とした時間調整の役割が拡大している可能性を示した。
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構造変化の下での景気循環の動向:「定型化された事実(Stylized facts)」の再検証(PDF形式 815 KB)
全文の構成
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1ページ要旨
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2ページ1. イントロダクション
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4ページ2. 経済の構造変化の検証
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5ページ3. 周波数領域分析の枠組み
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6ページ(BPフィルター)
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7ページ(分析データ、及び統計量)
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7ページ4. 景気循環特性とその変化
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8ページ(2000 年以前の景気循環特性)
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9ページ(2000 年以降にみられる景気循環特性の変化)
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12ページ5. 時変パラメータVAR モデルを用いた景気循環特性の変化の分析
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13ページ(モデルの構造)
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14ページ(モデルのベイズ推定)
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15ページ(分析データと事前分布)
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16ページ(推定結果及び含意)
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18ページ6. 結論
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19ページ参考文献
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21ページ図表
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21ページ図表1 実質GDPの景気循環成分
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21ページ図表2 実質GDPとそのトレンド成分
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21ページ図表3 パラメータの安定化テスト(CUSUM)の結果
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22ページ図表4 景気循環とマクロ経済変数の特性:2000年以前
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23ページ図表5 景気循環とマクロ経済変数の特性:2000年以降
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24ページ図表6 時差相関係数の変化:2000年以前と以降の比較
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24ページA. GDP
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25ページB. 労働・雇用
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27ページC. 賃金
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28ページD. 物価
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29ページE. 金利、株価、マネー等
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30ページ図表7 総労働供給(マンアワー、前年比(%))の動向:労働時間と雇用要因の寄与
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30ページ図表8 時変パラメータVARモデルのパラメータの推定結果
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31ページ図表9 需要ショックに対するGDP、所定内労働時間、雇用者数の反応:時変モデル(左図)と固定モデル(右図)
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32ページ図表10 時変モデルにおける同時相関係数の推移
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32ページA. 需要ショックに対する所定内労働時間の同時相関
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32ページB. 需要ショックに対する雇用者数の同時相関
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