ESRI Discussion Paper No.352 マネジメントのあり方と長時間労働・賃金格差

2019年11月
神林
一橋大学経済研究所教授、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官
亀田泰佑
前内閣府経済社会総合研究所特別研究員
川本琢磨
内閣府経済社会総合研究所特別研究員
杉原
日本大学経済学部教授、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官
田中万理
一橋大学経済学研究科講師

要旨

残業時間の削減や賃金格差の是正が議論されて久しい。旧来、これらは労働市場の現象として捉えられ、もっぱら労働市場制度や人事管理制度を設計することで操作可能だと考えられてきた。本稿では、国際的に比較可能なように設計された内閣府一般統計調査『組織マネジメントに関する調査』(Japan Management and Organizational Survey; JP-MOPS)を厚生労働省『賃金構造基本統計調査』と接続することで、人事管理制度のみならず、進捗管理など一般的なマネジメントのあり方と、残業時間や賃金格差との関連を検討した。その結果、判明したことは以下の通りである。第一に、進捗管理や生産目標の設定など、一見人事管理とは無関係に見えるマネジメントのあり方を改善することによって、月50時間を超える長時間残業が削減されることがわかった。同時に、ボーナスや昇進基準など人事管理のあり方を改善することによって、全く残業をしない被用者も減少する。全体として、マネジメントのあり方の改善は、事業所内の残業時間の均等化を促す傾向がある。第二に、解雇や配置転換をより素早く行う事業所では、年功賃金カーブが水平化し、長期勤続層と短期勤続層の賃金格差が減少する傾向があることがわかった。とくに女性の短期勤続層の賃金が上昇することを通じて、事業所内男女間賃金格差も減少させる。総じて、マネジメントのあり方の改善は、残業時間や賃金格差といった側面で、事業所内部の被用者間格差を減少させる可能性があるとまとめられる。本稿の分析結果からは、近年の働き方改革と呼ばれる一連の議論には、マネジメントのあり方を通じた労働条件の改善という視点が重要であることが示唆される。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1 Introduction
  2. 3ページ
    2 Related literature
  3. 4ページ
    3 Data
  4. 9ページ
    4 Overtime work and management practices
  5. 16ページ
    5 Wages and Management Practices
  6. 18ページ
    6 Inequality of hours and wages within establishments
  7. 19ページ
    7 Concluding remarks