研究会報告書等 No.89「AI技術の導入が雇用環境へ及ぼす影響の評価手法に関する調査研究報告書」2023年度

令和6年4月


概要

近年、革新的な技術の発展が目覚ましい人工知能(AI)やInternet of Things(IoT)、ロボット等の技術は、多様な領域で社会実装されてきており、労働市場にも影響を及ぼしている。その影響の大きさについて、Frey and Osborne(2017)は「米国の雇用者のうち約47%が就いている仕事は今後10~20年の間に技術に置き換えられるリスクが高い」と予測し、コンピュータ化により労働が代替され、労働市場に大きな負の影響を与えるのではないかとの見方を示した。それ以降多くの理論が提唱され、労働代替についての実証検証がなされている。

Michel Webbは、"The Impact of Artificial Intelligence on the Labor Market"(2019)において、AI等の技術が労働を代替する影響を予測する新たな客観的手法を提唱した。米国の職業データベースにおける各職業を構成する個別タスクの記述に着目し、そこに示されている〈動作や、解決しようとする課題〉と、特許データベースに着目し、そこに示されているAI技術が実現しようとする〈動作や、解決しようとする課題〉との間の関係性の強さに着目し、強いものほど当該タスクがAI技術に晒されている(exposure)と解釈し、AIに代替される可能性が高いと考えた。

本調査研究の目的は、Michael Webbによる上記論文に基づき、AI 技術が国内雇用環境へ及ぼす影響に関して、exposureスコアに関する試算を行うことである。この目的のため、本調査研究ではWebbが提唱した上記の手法を参考として日本語に対応する自然言語解析プログラムを作成し、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が提供する職業情報提供サイト及び独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)のデータベースを用いて、職業ごとのAI技術に晒されている(exposure)強さを試算したものである。

その結果、低exposureスコアの職業として、調理を行う職業、職人的職業、身体を用いる職業、ヒトとコミュニケーションを行う職業、そして判断を行う物が出力された。一方、高暴露度の職業として、比較的頭脳的なルーティンワークを行う物が出力された。

全文ダウンロード

報告書(目次)

「AI技術の導入が雇用環境へ及ぼす影響の評価手法に関する調査研究報告書」2023年度

  1. 3
    1.はじめに
    1. 3
      1.1 背景
    2. 3
      1.2 アプローチ
      1. 3
        1.2.1 職業データ
      2. 4
        1.2.2 特許データ
      3. 4
        1.2.3 アルゴリズム
  2. 5
    2. 実施概要
    1. 5
      2.1 期間、スケジュール、内容
    2. 8
      2.2 研究会開催履歴
    3. 8
      2.3 有識者
  3. 9
    3. 使用したデータセット
    1. 9
      3.1 日本版O*NET (JobTag)
      1. 9
        3.1.1 日本版O*NET (JobTag)とは
      2. 11
        3.1.2 職業ページ
      3. 14
        3.1.3 タスク記述が欠損している職業
    2. 16
      3.2 特許文献データの収集
      1. 16
        3.2.1 J-PlatPat
      2. 17
        3.2.2 JP-NET
      3. 17
        3.2.3 特許庁からの全件データ取得
      4. 18
        3.2.4 特許検索システムの構築
  4. 22
    4.日本版暴露度スコアの算出
    1. 22
      4.1 開発手法
      1. 22
        4.1.1 係り受け解析とルールベースに基づく手法
      2. 24
        4.1.2 MorePhraseExtractorの提案:品詞タグ抽出とルールベースに基づく手法
      3. 25
        4.1.3 その他のキーワード抽出手法
      4. 25
        4.1.4 キーワード抽出に基づく手法
      5. 25
        4.1.5 トピックモデルを用いた手法
    2. 27
      4.2 提案手法とWebb手法の比較
      1. 27
        4.2.1 類義語を用いた表記揺れへの対応
  5. 29
    5. 日本版暴露度スコア計算システム
    1. 29
      5.1 システム構成
    2. 30
      5.2 ソースコードと利用方法
  6. 35
    6.算出スコアの評価と分析
    1. 35
      6.1 定量評価を用いた予備実験
      1. 35
        6.1.1 人手ラベルを用いた評価
      2. 35
        6.1.2 既存研究のデータを用いた評価
      3. 37
        6.1.3 分析に用いる特許文献データ量と算出スコア評価値の比較
      4. 38
        6.1.4 定量評価により得られた知見
    2. 39
      6.2 Webb手法の単純な日本語化の課題
      1. 39
        6.2.1 結果: タスク記述を用いた場合
      2. 40
        6.2.2 結果: 「どんな職業?」を用いた場合
    3. 41
      6.3 暴露度スコア算出結果の分析
      1. 41
        6.3.1 スコア分布
      2. 42
        6.3.2 回帰分析を用いた暴露度スコアの妥当性検証
      3. 43
        6.3.3 既存研究との比較による算出暴露度スコアの妥当性検証
    4. 44
      6.4 定性評価
      1. 44
        6.4.1 Webbの結果
      2. 46
        6.4.2 本研究の結果と考察
        1. 47
          6.4.2.1 Bottom-20
        2. 48
          6.4.2.2 Top-20
        3. 49
          6.4.2.3 Webb法の課題
      3. 50
        6.4.3 タスクごとの名詞・動詞の寄与率の分析
      4. 51
        6.4.4 日本版暴露度スコア計算結果
  7. 72
    7. まとめ
  8. 72
    参考文献
  9. 74
    付録
    1. 74
      O*NETと日本版O*NET (JobTag)の職業の対応づけ