環境保護支出勘定の第二次試算及び廃棄物勘定の試算について

平成12年6月20日
経済企画庁経済研究所

 経済企画庁は、環境と経済の相互関係を統合的に把握するための統計体系である「環境・経済勘定体系」(SEEA;the System of Environmental and Economic Accounts-国民経済計算体系(SNA)のサテライト勘定の一つ)の研究を継続的に実施している。
 その研究の一環として、平成11年に初めて我が国の1990年時点の「環境保護支出勘定」の試算結果を公表したが、今般、追加データに基づき同試算を改訂するとともに、1995年時点の試算結果も取りまとめたので、以下のIに「環境保護支出勘定の第二次試算結果」を紹介する。
 また、環境問題の中でも特に廃棄物・リサイクルに焦点をあてた「廃棄物勘定」の検討を10~11年度に行ったので、以下のIIに「廃棄物勘定の試算結果」を紹介する。
 環境・経済勘定の研究開発は、「持続可能な発展」を実現するためのツールとなるよう、世界各国で進められており、とりわけ欧州諸国で活発であるが、我が国における以上のような成果も、時系列データの整備、金額データと物量データの統合分析といった点で先駆的な試みである。
 これらの成果は、今年度取りまとめる予定の環境・経済勘定の研究に生かすとともに、海外にも提供し、国際的議論に貢献していくこととしている。
 なお、環境・経済勘定体系については、1993年に国連が出版したハンドブックの改訂作業が国際研究グループ(「ロンドングループ」という。)において進行中であり、2001年半ばを目途に改訂版(the SEEA 2000)が出版される予定である。その草案は、事務局を務めるカナダ統計局によって、パブリックコメントのためにインターネットで公開されている。

I.環境保護支出勘定の第二次試算結果

1.環境保護支出勘定とは

「環境保護支出」とは、環境を保護するために経済活動の中で支出されている費用のことであり、例えば、企業が産業廃棄物を処理するために処理業者に支払う費用や家計が地方公共団体に支払う下水道使用料金などが挙げられる。このような費用をマクロ経済的に集計し、統計として整備するものが「環境保護支出勘定」である。この統計体系は、Eurostatにより「欧州環境経済情報収集体系」(SERIEE)の一部として研究開発されているものである。
環境保護支出勘定は、環境問題に対する社会の対応状況を示す統計であると言われる。すなわち、環境保護のために各経済主体がどの程度資金を負担しているかを計測することにより、汚染者負担原則の実施状況、国際競争力に対する環境保護負担の影響、環境対策の費用効果等を評価することに役立つ。また、環境保護のための財貨・サービスの生産・消費状況を計測することにより、いわゆる環境産業に関する経済政策を立案するための基礎データを提供することとなる。あえて言うならば、環境問題そのものの把握・分析のためというよりも、環境対策の経済的側面に関する把握・分析に役立つものと言える。

2.環境保護のための国民支出

 環境保護支出勘定は、「環境保護のための国民支出」という指標の算出を一つの目的としている。
 「環境保護のための国民支出」とは、環境保護のためのサービスの消費額(下水処理や廃棄物処理サービスの消費額等)、環境保護サービス生産のための総資本形成額(下水処理場の建設費等)等の合計値であり、すなわち、環境保護のためにその国が一年間にいくら費用を費やしているか、を表わす。したがって、このGDP(国内総生産)比率は、環境保護のための相対的な国家的努力の評価のために役立つかもしれない、と言われる。
 ただし、これはあくまで貨幣単位での評価であり、対GDP比が大きいことが必ずしも十分な環境対策が行われていることを意味する訳ではない。むしろ、それだけ大きな環境対策費用を必要とする経済社会構造であることを表わす、あるいは、環境対策の単位費用が高いことを表わしているかもしれない。環境対策の費用効果分析のためには、併せて環境に関する物量データを整備することが必要となる。

3.勘定の概念と試算対象

  1. 特徴的サービス
     環境保護のため生産活動(環境悪化の防止、軽減、除去等を主な目的とする生産活動=環境保護支出勘定における「特徴的活動」)によって生産されたサービスを「特徴的サービス」(環境保護サービス)という。今回の試算では、次の特徴的サービスを対象とした。
     ・産業関係~産業廃棄物処理サービス、事業所内の公害防止活動(付随的活動)によるサービス
     ・政府関係~公営廃棄物処理サービス、下水処理サービス、環境行政サービス
     また、「特徴的活動のための総資本形成」とは、上記の特徴的サービスを生産するための施設の建設費等であり、産業廃棄物処理・事業所内の公害防止活動・公営廃棄物処理及び下水処理に係る総資本形成を試算の対象とした。
  2. 関連・適応生産物
     環境保護のために直接使用される生産物であるが、特徴的サービスでも特徴的活動のための中間投入物でもないものを「関連生産物」といい、例えば、ごみ箱、浄化槽、遮音窓が挙げられる。今回の試算から、「合併処理浄化槽」及び「自動車排ガス処理用触媒」を新たに試算対象に加えた。
     環境保護以外の目的に役立つ生産物であるが、通常の生産物に比較して環境を悪化させることが少なく、より高価なものを「適応生産物」といい、例えば、脱硫燃料や無鉛ガソリンが挙げられる。今回の試算では対象にできるものがなかったが、類似するものとして、「低ベンゼンガソリン」について試算した。
     関連・適応生産物の消費額は、これらを使用した家計等が生産し、消費する環境保護サービス額とみることができるので、特徴的サービスの生産・消費額等と合わせてみることにより、より幅広く一国の環境保護活動の実施状況を把握できるようになる。
     したがって、特徴的サービスと関連・適応生産物を合わせて「特定生産物」と定義される。
  3. 特定移転
     特徴的サービスの生産や特定生産物の消費のための資金調達に貢献する一方的な費用移転を「特定移転」といい、経常移転と資本移転が区別される。特定移転には、特定生産物の消費額や特徴的活動のための総資本形成額に含まれていない移転支出が計上され、環境保護のための国民支出の構成要素になる。
     今回の試算では、産業廃棄物処理活動及び事業所内の公害防止活動に関する産業への補助金と家計への合併処理浄化槽設置補助金(いずれも経常移転)を対象とした。
  4. 1993年改訂SNA概念の導入
     環境保護支出勘定は、現在、日本が準拠している1968年改訂SNAではなく、1993年改訂の新SNAに基づいているため、市場産出・非市場産出、集合的消費・現実最終消費といった新しい概念が導入されている。
     特に「政府の集合的消費」と「家計の現実最終消費」は、従来の最終消費支出とは異なるものを表すので、留意を要する。

4.試算結果

 今回、1990年及び1995年の日本の環境保護支出勘定を試算し、その結果を「環境保護支出の使用者/受益者表(A表)」(表I-1別ウィンドウで開きます表I-2別ウィンドウで開きます)と「特徴的サービスの生産表(B表)」(表I-3別ウィンドウで開きます表I-4別ウィンドウで開きます)に取りまとめた。試算の主な基礎データは、産業連関表(総務庁)、公害防止設備投資調査(通商産業省)等である。
 A表は、各環境保護支出の使用者/受益者別にその支出額を記述し、「環境保護のための国民支出」を算出する。B表は、特徴的サービスの生産者別に特徴的サービスの産出構造を記述し、「環境保護支出の使用者/受益者表」の作成の基礎となる。
 なお、環境保護支出勘定体系には他に、「特徴的サービスの供給と使用表(B1表)」、「環境保護支出の資金調達表(C表)」、「環境関連の資金負担表(C1表)」があるが、これらについては、基礎データ不足の問題もあり、まだ作成できていない。

  1. 日本の概要(図表I-5別ウィンドウで開きます図表I-6別ウィンドウで開きます図表I-7別ウィンドウで開きます図表I-8別ウィンドウで開きます
     1995年の日本の環境保護支出勘定の試算結果の概要は、次のとおり。
     「環境保護のための国民支出」は11兆5200億円(対90年比45%増)で、対GDP(483兆2200億円)比は2.38%(90年1.84%)である。
     その内訳は、経常支出が6兆6800億円(構成比58%、対90年比35%増)、資本支出が4兆8400億円(同42%、62%増)であった。
     この結果は、日本の環境保護支出は相当程度大きく、かつ、この5年間に大幅に増加したこと(内訳を見ると、政府の環境保護産出額の増加が著しい)を示しているが、一方、この試算では把握できていない環境保護支出がまだあると考えられ、それが把握できれば、日本の環境保護のための国民支出はさらに大きくなると見込まれる。
     環境分野別の支出額は、水質保全が5兆2350億円(構成比45.5%、対90年比45%増)、廃棄物処理が4兆1700億円(同36.2%、36%増)、大気保全が9000億円(同7.8%、19%増)、その他の分野が1兆2100億円(同10.5%、146%増)であった。
     水質保全と廃棄物処理の構成比が大きいのは、下水道や廃棄物処理の事業規模自体が大きいことのみならず、その把握率が他の分野に比べて高いことも理由の一つであり、一方、大気保全については、把握できている部分が少なく、実態より低い構成比になっていると考えられる。その他の分野の急増は、環境行政予算の急増を反映している。
     特定生産物の消費額合計は6兆6500億円で、うち最終消費が3兆5300億円(構成比53%)、中間消費が3兆1200億円(同47%)である。その内訳を見ると、家計による水質保全と廃棄物処理のための最終消費がそれぞれ1兆1400億円(同17%)、1兆3600億円(同20%)、産業による廃棄物処理のための中間消費が1兆2900億円(19%)となっており、家庭排水・家庭ゴミ・産業廃棄物の処理のための支出が大きいことが分かる。
     関連生産物である合併処理浄化槽、自動車排ガス処理用触媒に係る支出額は、それぞれ760億円、310億円であり、環境保護支出に占める割合は高くない。なお、ガソリンの低ベンゼン化に要した費用(190億円)は、石油精製会社がこのコストを負担し、ガソリン価格には転嫁されていないので、低ベンゼンガソリンは適応生産物に当てはまらない。このため、この費用はあえて石油精製産業の付随的環境保護活動の支出として計上した。
     特徴的活動のための総資本形成額は4兆8300億円で、うち政府による水質保全のための資本形成が3兆4000億円(構成比70%)となっており、これは下水道建設費である。
     なお、昨年公表した1990年の環境保護支出(9兆7549億円)と今回の同支出(7兆9338億円)は、今回の方が1兆8200億円ほど少なくなっている。これは、データの再集計によって、産業による水質保全・廃棄物処理のための中間消費が大幅に少なかったことが判明した他、データの信頼性が乏しい環境アセスメントに係る支出を推計対象から除いたためである。
  2. ドイツ・オーストラリアとの比較(表I-9別ウィンドウで開きます表I-10別ウィンドウで開きます表I-11別ウィンドウで開きます
     1995年時点の環境保護支出勘定を推計している諸外国の例としては、ドイツ及びオーストラリアがある。これらの推計結果と日本の試算結果を比較してみる。ただし、各国が推計対象とした環境保護支出の範囲にはかなり違いがあり、また、日本の推計結果はまだ試算の段階にとどまっているため、数値の単純な比較はあまり意味がないことに留意する必要がある。
     環境保護支出の分野別構成比は、ドイツの大気保全(構成比18%)、オーストラリアの自然保護(同18%)の構成比が大きいことが特徴的である。これは、当該国における環境問題の優先順位とともに、環境保護支出の把握率の違いを反映していると考えられる。
     経常支出・資本支出の構成比は、日本の資本支出の構成比(42%)が比較的高くなっており、これは下水道建設費(水質保全の資本支出)が全体の中でも大きな割合を占めている(30%)ためである。下水道建設費については、明確ではないが数値から判断すると、ドイツでは推計対象に含まれ、オーストラリアでは含まれてないようである。
     環境保護支出の総額及び一人当たり額は日本が一番多いが、対GDP比はドイツが一番高い。オーストラリアはいずれも一番少ないが、この結果からオーストラリアの環境保護対策が遅れていると解釈するべきではない。そもそも環境問題が少ないから環境保護支出も少ないのかもしれない。  環境保護支出の解釈は、環境に関する物量データと合わせて行う必要があるが、この点については、まだ十分な検討が行われていない。

(参照文献)

  • Wolfgang Riege-Wcislo (German Federal Statistical Office) (1999)
     Implementation of SERIEE in Germany; Reporting year 1995
     Prepared for Eurostat and DG Environment
  • Australian Bureau of Statistics (1999)
    Environment Protection Expenditure; Australia 1995-96 and 1996-97

II.廃棄物勘定の試算結果

1.廃棄物勘定とは

 これまでの「環境・経済勘定」の研究は、環境全般を幅広く対象としていたため、逆に個別の環境問題における勘定の政策的利用可能性という点では限界があった。
 このため、環境・経済勘定の考え方を踏まえつつ、特定の環境問題と経済との関係をより細かく捉えることができるよう、廃棄物・リサイクルに焦点を当てた「廃棄物勘定」の検討を平成10~11年度に行った。
 廃棄物勘定は、廃棄物処理及びリサイクルに関する実際の生産・消費活動をSNA(国民経済計算体系)概念に従いマクロ経済統計として把握するとともに、併せて廃棄物処理に伴う環境負荷を貨幣換算し、これを実際の廃棄物処理に要した費用と比較しようとするものである。

2.廃棄物勘定の作成方法

 廃棄物勘定表としては、基礎となった環境・経済勘定表から廃棄物・リサイクル関係の計数を分離・明示する「基本表」(省略)とそれらの計数を生産活動部門別等に細分表示した「部門分割表」(表II-1、2(PDF形式))を作成した。
 勘定推計の基礎データは、すべて既存の公表データであり、「産業連関表」(総務庁)、「日本の廃棄物処理」(厚生省)、「公害防止設備投資調査」(通商産業省)等を使用した。
 推計時点は、産業連関表データが利用可能な1990年及び1995年である。

  1. 廃棄物処理・リサイクルの生産・消費活動 
     廃棄物処理サービス(廃棄物処理業者や地方公共団体が行う廃棄物処理事業のこと)の生産・消費のデータとしては、産業連関表の投入・産出表から廃棄物処理(産業)と廃棄物処理(公営)のデータを取り出すこととした。
     一方、リサイクルの状況を表す基礎データは極めて乏しい現状に鑑み、産業連関表の屑・副産物表から、ガラス屑・古紙・鉄屑・非鉄金属屑といった「リサイクルされる財」の投入・産出データ(これらの財の産出額・消費額)を取り出すこととした。
     「廃棄物処理サービスの利用額」は生産活動のコストであり、一方、「リサイクル財の産出」は生産活動の副産物すなわち売上である。かつ、この両者は概念的にはトレードオフの関係にある(リサイクルされる財の産出額が多ければ、廃棄物量が減って廃棄物処理サービスの利用額が少なくなるはず。実際には、リサイクルされる財と廃棄物処理される物の内容構成が相当異なっているため、明瞭なトレードオフ関係は生じない)。したがって、単純に考えると、リサイクル財の産出を増やすことにより廃棄物処理サービスの利用を減らせば、その生産者はより多くの利益を得られる。このため、部門分割表においては部門別に両者の差を計算してみた。
  2. 廃棄物処理に伴う環境負荷の貨幣換算
     廃棄物処理に伴う環境負荷の貨幣換算については、国連が1999年に出版した「環境・経済統合勘定-実践マニュアル-」の記述を参考にしつつ、「維持費用評価法」によって推計した。
     すなわち、
    1)廃棄物処理に伴う環境負荷(例えば、廃棄物の最終処分量)を物量データで把握する。
    2)この環境負荷を削減するために現に実施されている対策に要する費用を推計し、環境負荷を1単位削減するために必要とされる費用(費用原単位)を算出する(廃棄物の最終処分ならば、廃棄物の単位当たり減量化費用)。
    3)環境負荷量(最終処分量)に費用原単位(減量化費用原単位)を乗じて、負荷量の貨幣換算値を算出する。
     このような維持費用評価法による環境負荷の貨幣換算値の持つ意味は、環境負荷を費用原単位でウエイト付けすることによって、現に生じている環境負荷を削減するために必要な費用規模のおおよそのイメージを表し(換言するならば、「環境負荷という外部不経済を経済に内部化させるための費用」となる。しかし、極めて大雑把な推計手法であるため、実際に必要となる費用規模とは大きく異なる場合があることに留意)、異なる環境負荷をその削減に要する費用の面から比較可能なものにする(例えば、廃棄物の最終処分量と二酸化炭素の排出量をその削減対策に要する費用に換算し、どちらの対策費用が高いかを比較する)ことにある。
     こうして得られる廃棄物処理に伴う環境負荷の貨幣換算値は、「廃棄物処理のために現に要している費用」(=廃棄物処理サービスの利用額)に対して、「さらに加えて支出すべき廃棄物処理費用」とも言える。
  3. 物量表
     以上のような計数は金額表示のものであり、その数値の大小は必ずしも環境の状況を反映するものではない。環境に関する経済計数とも言うべき金額表示の数値は、環境の状況に直結する環境物量データと合わせることによって、初めて環境・経済分析の役に立つものとなる。
     このため、廃棄物処理・リサイクルに関する物量データを集めた物量表を併せて作成した(表II-3、4(PDF形式))。

3.試算結果

 以下に試算結果の概要を紹介する(図II-5別ウィンドウで開きます)が、その解釈に当たっては、基礎データが必ずしも十分でなく、数値の信頼性には相当の問題があることに留意する必要がある。例えば、主たるデータ源となっている産業連関表はそれ自体加工統計であって、その信頼性は高いものの、以下のような全体に対して微小な問題分野の分析に耐えられる精度かどうかは確言できない。
 試算を通じて明らかになった最大の問題点は、このような環境・経済の統計作成及び分析に利用可能な基礎データは、たとえ特定の環境分野に特化したとしてもやはり十分ではない、ということであり、今後、環境・経済政策に経済理論分析を活用していこうとするならば、基礎データの収集・整備・公開に関係各方面が努力していく必要がある。

  1. 廃棄物処理サービス
     1995年の廃棄物処理サービスの利用総額は約3兆900億円(対90年比17 %増)で、その供給側の内訳は、産業部門が提供するサービス額が1兆8700億円(構成比60%、対90年比18%増)、政府部門が提供するサービス額が1兆2200億円(構成比40%、対90年比15%増)であった。ただし、政府のサービス提供額の90%(約1兆1100億円、構成比36%、対90年比16%増)は、受益者から対価が支払われず、したがって税金で費用が賄われている。
     需要側の内訳は、生産部門による中間消費が約1兆7400億円で全体の56%を占め、うち「サービス業・その他」が最も大きく約6300億円(構成比20%)、次いで「政府サービス生産者」が約4400億円(同14%)であり、製造業は約2100億円(同7%)であった。一方、最終消費額は、政府と家計を合わせて約1兆3600億円で全体の44%を占め、うち家計は2500億円(同8%)であった。なお、政府の最終消費分は政府の廃棄物処理事業に係る自己消費であり、従って、この最終消費額全体は家庭から出るゴミ(一般廃棄物)の処理費用を表すこととなる。
     このように、廃棄物処理サービスの利用額は、物が消費される場であるサービス業や家計において多く(ただし、家計の利用額の9割は税金によって費用が賄われている)、物の製造の場である製造業等では意外に少ないことがわかる。これは、後述するリサイクル財の産出額が製造業において多いこととも多少関係していると考えられる。なお、産業部門が出した廃棄物を自己処理する場合は、廃棄物処理サービスの利用額には表れてこないが、別途推計した産業部門における廃棄物の自己処理費用は約400億円であり、さほど多額ではなかった。
     *近年議論されている廃棄物処理に係る「拡大製造者責任」の問題は、このように物の消費者が支払っている廃棄物処理費用を物の製造者に支払わせることにつながるが、その費用は当然製品価格に転嫁され(すなわちその分物価が上昇)、やはり消費者が負担することになる。
     以上のような金額データを物量データと合わせてみる。生産活動に伴い排出された産業廃棄物総量は約3億9400万tで、その処理に要した費用は約1兆7400億円、したがって、トン当たり処理費用は約4400円となる。一方、家庭から排出された一般廃棄物総量は約5070万tで、その処理に要した費用は1兆3600億円、したがって、トン当たり処理費用は約2万6800円となる。ただし、このような分析には、金額データ、物量データ、それぞれの不確実性が累積されるため、一層慎重な取り扱いが必要である。
  2. リサイクル財 1995年のリサイクル財の産出総額は約6500億円で、廃棄物処理サービス利用総額の約1/5にあたり、その大半は、産業の固定資本形成(固定資本の更新に伴う金属屑等の発生;約3150億円、構成比48%)と製造業(約2300億円、同36%)が産出している。 製造業においては、廃棄物処理サービス利用額(約2100億円)よりリサイクル財産出額の方が大きく、差し引き約200億円の黒字となっている。これは、製造業の粗付加価値額119兆円に比すれば微小な額であるものの、それなりにリサイクルの促進が生産コスト削減に貢献しているといえる。 廃棄物処理サービスの利用額が多かった家計やサービス業におけるリサイクル財の産出額は、製造業等と比較すると1桁少ないものの、それでも他の部門よりは多く、家計約350億円、サービス業約380億円であった。 ただし、リサイクル財産出額の内訳は、鉄屑約3050億円(構成比47%)、非鉄金属屑約2580億円(同40%)、ガラス屑等約830億円(同13%)、古紙約30億円(同0.5%)となっており、このような構成が、前述の部門別産出額に大きく影響していることに留意する必要がある。 リサイクル財の95年産出総額は、90年の約9750億円に対して33%減となっており、これは鉄屑・非鉄金属屑の産出額が減少したためである。この原因は不明であるが、リサイクル財の産出量のみならず市場価格の変化の影響があるのではないかと推測できる。
  3. 廃棄物の最終処分量の貨幣換算 廃棄物処理に伴う環境負荷の貨幣換算については、廃棄物最終処分、大気汚染及び二酸化炭素排出に関して推計を試みたが、以下では、費用原単位の基礎データがそれなりに妥当で、推計値の部門分割も可能であった廃棄物の最終処分量の貨幣換算を紹介する。 1995年の廃棄物の最終処分量の貨幣換算値は総額約9500億円(対90年比10%増)であり、同年の廃棄物処理サービスの利用額の3割強に達した(この意味は、最終処分量を減らすためには廃棄物処理費用をあと3割程度増やした方がいい、ということであるが、貨幣換算値自体の信頼性は極めて乏しく、目安に過ぎない)。 その排出源内訳は、家計(すなわち一般廃棄物)約6200億円(構成比66%、対90年比24%増)に対して生産活動(すなわち産業廃棄物)約3300億円(同比34%、同9%減)であり、生産活動の内訳は、製造業約1100億円(同比11%、同20%減)で、その他の業種はいずれも1000億円未満である。 廃棄物の最終処分量を物量データでみた場合、産業廃棄物の最終処分量(6900万t)は、一般廃棄物のそれ(1360万t)の約5倍であり、貨幣換算値が逆に半分弱になっているのは、産廃の減量化に要する費用原単位(4751円/t)が一廃のそれ(45864円/t)の約1/10だからである。 また、廃棄物の最終処分量は、一廃・産廃とも95年は90年に比べて同じように減少しており(一廃19%減・産廃22%減)、対90年比で一廃・産廃の貨幣換算額の増減の違いが生じているのは、95年の費用原単位が一廃で対90年比53%増、産廃で同18%増となったためである。つまり、一般廃棄物の最終処分量の貨幣評価額の増加は、減量化の費用原単位が高騰したことを反映している。

(参考)図:SNA・SEEA・環境保護支出勘定・廃棄物勘定の関係別ウィンドウで開きます

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