平成10年度調査:企業行動に関するアンケート調査(平成11年(1999年)4月20日公表)                         「期待成長率低下のなかでの企業行動」 Annual Survey of Corporate Behaviors

調査の背景

実質経済成長率が5四半期連続でマイナスとなるという厳しい経済環境のなか、我が国企業はバブルの後遺症の清算や金融・資本市場における構造変化等への対応を迫られている。このような厳しい状況のなか、日本経済の将来に対する悲観的な見方が広がっているが、景気を自律的な回復基調に乗せ、日本経済を中長期的に健全な成長経路に復帰させるためには、経済の供給サイドである企業の体質強化を図っていくことが必要であると考えられる。

今回の「企業行動アンケート調査」では、我が国企業の「経営環境と経営基本方針」を調査するとともに、「財務体質改善に向けた取組」、「事業ポートフォリオの再検討」、「金融・資本市場における変化への対応」の3つの視点から、厳しい経営環境のなかで体質強化に取り組む企業の行動を明らかにすることを狙いとした。

調査要領

調査時期
平成11年1月
調査事項
1.経営環境と経営基本方針、2.財務体質改善に向けた取組、3.事業ポートフォリオの再検討、4.金融・資本市場における変化への対応
調査対象
東京、大阪、名古屋の証券取引所第1部及び第2部上場企業のうち、金融・保険業を除く企業(2,146社)
調査方法
所定の調査票による郵送・自計申告方式
回答企業数
1,361社(製造業806社、非製造業555社)
回答率
63.4%

調査結果のポイント

  1. 企業が予想する実質経済成長率は、単年度の見通しでマイナスに転じたほか、より中期的な見通しについても同一基準で比較できる昭和61年度以降で最低の水準となった。また、設備投資や雇用の方針についても鈍化・減少を見込むなど、企業は経済の先行きに対し厳しい見方をとっている。

  2. このようななか、企業は不採算・低収益事業の縮小・整理や有利子負債の削減等を通じて財務体質の改善を進めており、今後、収益性評価判断の徹底等を財務戦略上の指針とすることにより、より資本効率性を重視した経営への転換を進めようとしている。

  3. また、事業ポートフォリオについても、半数近くの企業が自社の現状を適正でないと考えており、今後、企業は事業の収益性や成長性等を考慮しつつ、分社化やM&A等、従来よりも多様な方法によって事業ポートフォリオの再構成を進めようとしている。

  4. さらに、効率的かつ透明性の高い新たな経営システムへの転換を図るため、企業は今後、株主や格付け機関等、金融・資本市場からの経営規律を意識した経営への転換を進めるものと考えられる。

  5. 以上のような取組を円滑に行う上で、制度面における各種措置が必要との回答がなされるなど、企業は政府に対し、税制、法制度の改革等、企業の体質改善を促進するための環境整備を求めている。

結果の概要

  1. 経営環境と経営基本方針

    (1)実質経済成長率の見通し

    実質経済成長率については、全産業平均で平成11年度は0.2%の減少、今後3年間(平成11~13年度)では0.8%の増加、今後5年間(平成11~15年度)では1.2%の増加を見込んでいる(今後3年間、今後5年間の見通しは年度平均)。

    年々低下してきた期待成長率は、単年度の見通しでマイナスに転じたほか、今後3年間及び5年間の見通しについても、同一の基準で比較できる昭和61年度以降で最低の水準となった(図1-1表1)。

    (2)輸出企業の採算円レート

    輸出企業の採算円レートは、全産業平均で112.7円と3年連続で下落した。調査直前月である平成10年12月の円レートの117.5円よりは円高であるが、昨年度調査よりその乖離幅が縮小している(図1-2表2)。

    (3)設備投資の見通し

    今後3年間の設備投資の年度平均伸び率見通しは、全産業平均で0.3%増(製造業0.1%増、非製造業0.6%増)と、昨年度調査の3.0%増(製造業3.4%増、非製造業2.4%増)から伸び率がさらに鈍化した(図1-3)。

    (4)雇用者数の見通し

    今後3年間の雇用者数の年度平均伸び率見通しは、全産業平均で2.3%減(製造業3.2%減、非製造業1.0%減)と、前回調査の0.7%減(製造業1.1%減、非製造業0.0%)からさらに減少幅が拡大した。

    部門別にみると、製造・販売部門等では1.5%減と、昨年度調査の0.3%増からマイナスに転じ、企画・管理部門等では3.3%減と昨年度調査からさらに減少幅が拡大した(図1-4)。

  2. 財務体質改善に向けた取組

    (1)財務体質の評価

    自社の財務体質の評価については、損益計算面では単独決算ベースで「悪い」とする企業の割合(「どちらかといえば」とする企業を含む、以下同じ)が48.4%と、「良い」とする企業の割合の31.7%を上回った。また、連結決算ベースでは「悪い」とする企業が51.9%と、さらにその割合を高めている。

    バランスシート面では、単独決算ベースで「良い」とする企業の割合が45.9%を占めたが、その一方、「悪い」とする企業の割合も32.8%を占めている。さらに、連結決算ベースでは、「悪い」とする企業が38.7%とその割合を高め、「良い」とする企業の38.5%を上回った。

    損益計算面、バランスシート面とも、連結決算ベースにおける財務体質の評価はより厳しいものとなっている(図2-1)。

    (2)財務体質(主にバランスシート面)改善への取組状況

    財務体質の改善を図るために過去5年間に行ったこととしては、「過剰在庫の圧縮」、「有利子負債の圧縮」、「不採算・低収益事業の縮小・整理」、「新規設備投資の抑制」などを挙げる企業の割合が高くなっている。一方、今後5年間に行うことを検討していることとしては、「不採算・低収益事業の縮小・整理」、「退職金給付方式の変更や企業年金給付水準の引下げ等、退職金・企業年金制度の変更」、「退職給与引当金や企業年金資産の積み増し」、「資産劣化した子会社・関連会社の整理」などにおいて割合が高まっている(図2-2)。

    (3)財務体質改善に要する期間の見通し

    財務体質改善に要する期間の見通しとしては、損益計算面、バランスシート面とも「今後2年以上3年未満」とする企業の割合が最も高くなっている。

    損益計算面、バランスシート面とも、連結決算ベースでは「今後5年以上」等、より長期を見込む割合が高くなっている(図2-3)。

    (4)財務面における経営目標の在り方

    財務面における経営目標の在り方としては、従来においては「売上高や利益の絶対額を重視」とする企業の割合(「どちらかといえば」とするものを含む、以下同じ)が82.1%、「資本利益率や資本効率性を重視」とする企業の割合の2.6%を大幅に上回っているが、今後については「両者を同程度重視」、「資本利益率や資本効率性を重視」とする企業の割合がそれぞれ41.0%、26.4%まで高まっており、今後、企業は資本効率性を重視した経営により重心を移していこうとしている(図2-4)。

    (5)今後の財務戦略上重要となること

    今後、資本利益率や資本効率性を重視した経営を行っていく上で財務戦略上重要となる指針としては、「事業計画や投資における収益性評価判断の徹底」、「既存投資や保有資産の絶えざる見直しによる資金効率の向上」、「在庫管理の徹底による資金効率の向上」などを挙げる企業の割合が高くなっている(図2-5)。

  3. 事業ポートフォリオの再検討

    (1)自社の事業ポートフォリオの評価

    自社の事業ポートフォリオについて「概ね適正である」とする企業が54.4%を占めたが、一方で「特化し過ぎている」とする企業の割合(「どちらかといえば」とする企業を含む、以下同じ)が27.3%、「多角化し過ぎている」とする企業の割合が18.3%となっており、自社の事業ポートフォリオが適正でないと考えている企業が45.6%を占めている。

    資本金規模別では、規模の小さい企業ほど「特化し過ぎている」、規模の大きい企業ほど「多角化し過ぎている」とする割合が高まる傾向がみられる(図3-1)。

    (2)事業ポートフォリオの再構成を行う際に採用する方法

    事業ポートフォリオの再構成を行う際に採用する方法としては、過去5年間については、縮小・撤退では「自社の他事業部門への再編・統合」、「事業部門の清算」など、強化・参入では「自社内に新たな事業部門を設立」、「子会社の設立」などを挙げる企業の割合が高くなっている。

    また、今後5年間については、縮小・撤退では「事業部門の分社化、独立会社化」、「他社との合弁、事業統合」、「他社への営業譲渡、売却」、強化・参入では「他社との業務提携」、「M&A」、「自社内の既存の事業部門の転用」など、多くの項目でその割合が高まっており、今後、企業は従来よりも多様な方法によって、事業ポートフォリオの再構成を行おうとしている(図3-2)。

    (3)強化・参入を図る事業分野

    強化・参入を図る事業分野としては、過去5年間については「情報・通信関連」、「環境関連」、「新素材・新材料関連」などを挙げる企業の割合が高くなっている。

    今後5年間にその割合が高まる事業分野としては、「環境関連」、「医療・福祉関連」、「生活・家庭支援関連」、「情報・通信関連」などが挙げられる(図3-3)。

    (4)事業ポートフォリオの再構成を円滑に行うために必要な制度面での措置

    事業ポートフォリオの再構成を円滑に行うために必要な制度面での措置としては、「連結納税制度の導入」、「企業分割等に伴う資産移動に係る課税の緩和・非課税化」、「債権や物権等、権利・義務関係の継承手続きの簡素化」、「子会社設立時・合弁時等における不動産取得税・登録免許税の減免」などを挙げる企業の割合が高くなっており、企業は事業ポートフォリオの再構成を図るため、特に税制面における手当が必要と考えている(図3-4)。

  4. 金融・資本市場における変化への対応

    (1)金融ビックバン等による金融・資本市場における変化が企業経営に与える影響

    金融・資本市場における変化が企業経営に与えるメリットとしては、「資金調達の多様性や柔軟性の増大」、「低コストによる資金調達が可能」、「よりよい資産運用機会の拡大」などを挙げる企業の割合が高くなっている。

    デメリットとしては「財務内容や格付け等による資金調達コストの企業間格差の拡大」、「各種のリスクに対する負担の増加」、「金融機関の資産圧縮策等による貸し渋りの増加」などを挙げる企業の割合が高くなっている(図4-1)。

    (2)メインバンクとの関係の在り方

    メインバンクとの関係の在り方については、今後、より特定のメインバンクに依拠しない経営へと重心を移していく企業が増えていく。

    企業がメインバンクの機能や特質として従来どのような事項を重視してきたかについては、「安定的な資金供給力の高さ」、「安定株主であること」、「長期継続的な取引実績があること」など、長期・継続的取引関係にまつわる項目を挙げる企業の割合が高くなっている。

    今後については、上記項目の割合が低下する一方、「事業提携やM&A等、事業戦略面における情報提供力の高さ」、「資金の調達・運用面における情報提供能力の高さ」、「財務体質や格付け等、金融機関としての体力や信用力の高さ」など、情報提供力や信用力の高さにまつわる項目を挙げる企業の割合が高まる(図4-2)。

    (3)株式持合い関係の変化

    今後、企業は株式持ち合い関係の解消や選別等をさらに加速していこうとしている。

    従来における株式持合いのメリットとしては「長期・安定的保有による株価の維持・安定」、「株式持合い相手との長期継続的な取引が可能」、「敵対的企業買収の防止等による経営の安定」、デメリットとしては「持合い株の株価低下による含み損の発生」、「長期・安定的保有による資金の流動性の低下」を挙げる企業の割合が高くなっている。

    今後については、「メリットはない」とする企業の割合が高まっているほか、デメリットとして「資本コスト意識の希薄化による資本効率性の低下」、「機動的な取引先選択の足枷となる」、「長期・安定的保有による資金の流動性の低下」などを挙げる企業の割合が高まっている(図4-3)。

    (4)株主と格付け機関からの経営規律の評価

    株主(持合い先を除く)と格付け機関からの経営規律が企業経営の効率化や透明性向上を図る上で十分な役割を果たしてきたかどうかの評価については、株主、格付け機関とも「果たした」とする企業の割合(「どちらかといえば」とするものを含む、以下同じ)がそれぞれ36.4%、37.2%に止まり、企業は必ずしも株主や格付け機関からの経営規律が企業経営上十分に浸透してきたとは考えていない。

    しかし今後については、株主、格付け機関とも「果たす」とする企業の割合がそれぞれ58.2%、55.0%と過半数まで達しており、今後、企業は株主や格付け機関からの評価を意識した経営への転換を迫られるものと考えている(図4-4)。

    (5)株主からの評価を高めるため重点的に行うこと

    株主からの評価を高める観点から従来重点的に行なってきたこととしては、情報開示面では「事業報告書や決算説明会等の充実」、「会計監査機能の強化等による財務諸表の信頼性の向上」、「株主総会における審議の充実」など、利益還元面では「安定的な配当」を挙げる企業の割合が高くなっている。

    今後については、情報開示面では「連結・時価会計等、新会計基準の厳格な適用」、「IR担当窓口の設置等、株主からのアクセスの利便性の向上」など、利益還元面では「自社株の買入れ・償却の実施による一株当たり利益の向上」、「配当利回りの向上」、「配当性向に依拠した業績変動型の配当」などの割合が高まっている(図4-5)。

問い合わせ先

内閣府 経済社会総合研究所景気統計部
電話03-6257-1630(ダイヤルイン)