平成11年度調査:企業行動に関するアンケート調査(平成12年(2000年)4月11日公表)                         「収益改善努力とリストラの今後」 Annual Survey of Corporate Behaviors

調査の背景

長い景気の停滞期を経て、企業収益の見通しには若干の明るさが見られるようになってきている。この背景には、収益改善のための企業努力がある。フロー面では売上原価削減、ストック面では過剰資産削減のため、様々な改革が行われている。このような改革がある程度の成果をあげつつある一方で、雇用環境は厳しい状況が続いている。

過去の景気循環でも雇用調整はみられた。しかし、今回の調整では、従来の短期的な調整と同時に、グローバル化、規制緩和、技術革新などを背景として日本企業の雇用システムが構造的な変化を迫られているとの議論がある。実際に、昨今では中高年層の雇用喪失、正規社員から非正規社員へのシフト、新産業への雇用機会のシフトなどが指摘されている。

こうしたことから、今回の「企業行動アンケート調査」では、従来からの調査を継承して、我が国企業の経営環境と経営基本方針を調査(第1章)するとともに、「収益改善のための施策」(第2章)、「雇用の現状と見通し」(第3章)及び「内部労働市場の行方」(第4章)の3つの視点から、「企業の収益環境と雇用」について分析した。

調査要領

調査時期
平成12年1月
調査事項
1.経営環境と経営基本方針、2.収益改善のための施策、3.雇用の現状と見通し、4.内部労働市場の行方
調査対象
東京、大阪、名古屋の証券取引所第1部及び第2部上場企業のうち、金融・保険業を除く企業(2,190社)
調査方法
所定の調査票による郵送・自計申告方式
回答企業数
1,348社(製造業826社、非製造業522社)
回答率
61.6%

調査結果のポイント

  1. 企業が予想する実質経済成長率は、単年度の見通しで0.9%と昨年度のマイナスからプラスに転じ、5年ぶりに前年度を上回った。中期的な見通しも今後3年間で1.3%(年平均)、今後5年間で1.5%(年平均)と水準は低いものの、昨年度より回復している。設備投資についても今後3年間で1.7%(年平均)と昨年度より回復しており、明るさがみられるようになってきている。輸出企業の採算円レートは、106.5円と4年ぶりに上昇し、昨年夏以降の円高の進展を受けて、各企業が採算レートを高めに調整してきていることがうかがえる。

  2. 収益改善努力にもかかわらず、コストについては高すぎるという評価が6割以上をしめている。コストの適正化にかかる期間は人件費では2年以上、その他のコストでは2年程度とする企業が最も多い。資産面での調整は全般に進捗がみられる。しかし、生産設備と有価証券では2割強、土地建物では3割弱の企業が各資産を過剰と評価しており、この適正化については2年程度の調整期間が必要と考えている。

  3. 雇用の過剰感は特に中高年で強く、適正化には2年以上かかると予想される。過去の雇用の減少は20代、50代の生産関連の正社員を中心としてきた。今後は20代の雇用減少は一段落するという見通しが多い一方、40代、50代の「人事経理財務」では減少が予想される。雇用が増加しているのは若い世代の「営業・マーケティング」の正社員である。契約社員の増加は、雇用増全体の1割程度で「情報システム」などの業種が比較的多い。なお、雇用調整のための異動先・異動元の見通しをみると、社内異動の割合が多い。このように、雇用調整は正社員を中心に社内調整で行われることが予想される。

  4. 理想的な年齢構成としては、現状よりも若い世代が多く、年齢の高い世代が少ない構成を描いている企業が多い。理想的な賃金制度としては、若い層の最高賃金がより高く、中堅層では年齢内格差がより広く、中高年層では最低賃金がより低い姿を描いており、実力主義的な賃金体系を志向しているといえる。一方、人材の育成は自社内の異動や研修で行うなど長期雇用システム自体は当面は大きく変わることはないと予想される。

結果の概要

  1. 経営環境と経営基本方針

    (1)実質経済成長率の見通し

    平成12年度の実質経済成長率について、全産業平均で0.9%を見込んでいる。中期的な見通しについては、今後3年間(平成12~14年度)では1.3%(年平均)、今後5年間(平成12~16年度)では1.5%(年平均)を見込んでいる。単年度では、昨年度のマイナスからプラスに転換しているが、平成6年度、平成10年度と並ぶ低水準となっている。今後3年間及び5年間でも、昨年度より回復しているが、同一の基準で比較できる昭和61年度以降では昨年度に次ぐ低い水準となっている(第1-1-1図)。

    (2)輸出企業の採算円レート

    輸出企業の採算円レートは、106.5円と4年ぶりに上昇した。調査直前の円レート(11年12月の円レートは102.7円)よりも円安水準となっているが、昨年夏以降の円高の進展を受けて、各企業が採算レートを高めに調整してきていることがうかがえる(第1-2-2図

    (3)設備投資の見通し

    今後3年間の設備投資の年平均伸び率は1.7%(製造業1.9%、非製造業1.4%)と前回調査の0.3%(製造業0.1%、非製造業 0.6%)から伸びが上昇する(第1-3-1図)。設備投資の内訳をみると、今後3年間では過去3年間と比較して、合理化・省力化、更新・維持補修、研究開発のウエイトが高まり、他方、能力増強、福利・厚生施設のウエイトが低下する(第1-3-2図)。

    (4)雇用者数の現状と見通し

    従業員数の変化は、過去3年間では年平均2.5%減(製造業3.2%減、非製造業1.4%減)、今後3年間では同1.7%減(製造業 2.4%減、非製造業0.5%減)となっている。過去3年の2.5%減は過去最大のマイナス幅である。今後3年については、昨年より改善しているものの1.7%減は昨年に次ぐマイナス幅となっている。(第1-5-1図)。

    部門別の見通しでは、製造・販売部門では、引き続きマイナスであるものの昨年と比較して改善している。管理・企画部門でも昨年との比較では改善しているが、引き続き2%台後半の削減傾向が続く見込みである(第1-5-2図)。

  2. 収益改善のための努力

    (1)収益関連指標の見通し

    今後1年間の売上高をみると「増加する」と予想する企業は52.8%、経常利益が「増加する」と予想する企業が62.6%と、企業経営には明るさが見られるようになってきている。売上高が「変わらない」とする企業においても、経常利益の予想は、「増加する」が46.0%を占めており、人件費等コスト削減策などの経営の効率化が収益改善の要因のひとつであることがうかがえる(第2-1-1図、第2-1-2図)。

    (2)コスト削減努力と調整期間

    コストの現状の評価をみると、高すぎるとする企業が、「売上原価」については66.7%、「流通販売費」については61.4%、「一般管理費」については61.6%、「人件費」については61.3%であり、全ての項目で高すぎるという評価が6割以上を占めた。コストの適正水準からの乖離度をみると、「一般管理費」と「人件費」については、まだ削減の余地が大きいと考えていることがわかる。コストが適正な水準になるまでの期間をみると、「人件費」においては「2年よりのち」とした企業が最も多かった(第2-2-1図、第2-2-2図)。人件費が適正な水準となるまでには、売上原価、流通販売費、一般管理費といった括りの経費よりも長い期間を要することが予想される。

    (3)ストック調整努力と調整期間

    資産は適正な水準とする企業が多いものの、生産設備、有価証券では2割強、土地建物では3割弱の企業が各資産を過剰と評価しており、その適正化には2年程度の調整期間が必要である(第2-3-1図、第2-3-2図、第2-3-3図

  3. 雇用の現状と見通し

    (1)雇用の過剰感

    雇用過剰感のある雇用形態は正社員という回答が9割以上を占め、年代では「50代」が最も多い。雇用が適正な水準になる時期については2年以上かかると予想する企業が多い。雇用が適正な水準になる時期を正社員について年代別にみると、年代が高いほど調整に要する期間も長くかかることが予想される(第3-1-1図)。

    (2)雇用調整の対象世代と雇用形態

    過去の雇用減少は、20代と50代の正社員において行われる部分が多かった。今後の見通しでは、雇用調整が正社員を中心に行われる点は変わらないが、20代の削減は一段落する。雇用の増加は、若い世代の正社員が最も多い。今後3年間では、「20代」の「契約社員」が増加すると見通す企業の割合が若干増えているものの、「20代」の雇用を増やす企業全体のなかでは1割にとどまる(第3-2-1表、第3-2-2表)。

    (3)部門別にみた雇用の増減

    過去の雇用の減少は20代と50代が中心で、「生産」部門の割合が高い。一方増加したのは、20代と30代で「営業・マーケティング」や「研究開発」の割合が高い。今後については、50代では引き続き生産関連を中心に雇用が減少し、20代、30代の「営業・マーケティング」あるいは「研究開発」が増加することが予想される(第3-3-1表)。

    (4)雇用増減と異動状況

    雇用減少の場合は、すべての世代で過半数が社内異動であり、今後はよりその傾向が強まる。また雇用増加の場合は20代以外では社内異動が過半数を占めている。したがって、今後3年間というスパンでみる限り、転職が主たる労働移動の手段になることはないと予想していることがうかがえる(第3-4-1図、第3-4-2図)。

  4. 内部労働市場の行方

    (1)人員構成の現状と理想

    自社の40代従業員数を100として評価した。30代の従業員数については、現状が理想を下回っている。50代の従業員数については、現状が理想を上回っている(第4-2-1図)。

    30代と50代の従業員数の比をとると、理想とする従業員の年齢構成よりも、現状の年齢構成では50代が多くなっていることが確認される(第4-2-2図)。

    (2)賃金制度の現状と理想

    40代の平均的な賃金を100として年代別の最高賃金と最低賃金を評価した。30代の現状と理想を比べると、最高賃金について理想では現状よりも全体的に上方に寄っている。40代では、理想のほうが最高賃金が高く最低賃金が低くなっている。50代では、理想と現実の違いは最低賃金にあらわれており、理想では全体的に下方に寄っている(第4-3-1図)。以上から、より実力主義的な賃金制度を理想とする企業が多いことがうかがえる。

    (3)異動と研修による人材養成

    職種間の異動を職種内での異動の頻度を100とした比でみると、「100~110」が多い。全体的に、今後は職種間の異動の割合が次第に増えると見通している(第4-4-1図)。

    重視する技能について、現状では「企業特化型の技能」が3割を占めているが、5年後及び長期的見通しでは1割程度である。長期的には「汎用的な技能」を重視する企業が多かった。また、研修制度で重視する技能は、重視する技能の回答割合とほぼ整合的であり、重視する技能の変化は研修や社内異動でフォローしようとする姿勢がみられる。(第4-4-2図)。

    (4)資格制度と定着率

    定着率についてみると、5年後の見通しでは「変わらない」という回答が最も多かったのに対し、長期的には「低くなる」という回答が最も多かった(第4-4-5図)。資格制度のある職種の定着率については、現状では「他の職種と変わらない」とする企業が最も多い。5年後及び長期的な見通しでも「他の職種と変わらない」とする企業が最も多いものの、長期的な見通しのほうが「他の職種より低い」とする企業が増加する。このように、定着率に関しては、資格制度の有無の影響は当面小さい(第4-4-6図)。

    (5)年金制度の現状と見通し

    勤続年数と年金の関係についてみると、現状では「勤続年数が上がるほど急勾配であがる」とする企業が最も多いが、5年後では「勤続年数に比例する」とする回答が最も多く、長期的な見通しでは「勤続年数は無関係」とする回答が最も多い(第4-4-8図)

    確定拠出型年金の導入状況についてみると、「今後(時期未定)で導入する予定である。」とする回答が最も多い(第4-4-9図)。

問い合わせ先

内閣府 経済社会総合研究所景気統計部
電話03-6257-1630(ダイヤルイン)