介護と保育に関する生活時間の分析結果

平成11年6月22日
経済企画庁経済研究所
国民経済計算部

1.はじめに

経済企画庁では、平成9年度から3ヵ年計画で介護と保育の経済的側面に関する統計体系となる「介護・保育サテライト勘定」の研究開発を行っているが、平成10年度の研究の一環として、平成8年の社会生活基本調査(総務庁)の生活時間データを利用した「介護と保育に関する生活時間の分析結果」を取りまとめたので、ここに紹介する。

2.生活時間分析の目的

 総務庁が行う社会生活基本調査では、国民の1日の生活時間の使用状況、すなわち睡眠、仕事、家事、余暇活動等に1日当たりどのくらい時間を費やしているか、が調査されている。
 経済企画庁では、この生活時間データの中から「介護・看護」と「育児」の生活時間を取り出し、世帯構成等とのかけあわせを行うことにより、65歳以上の家族を介護する「老人介護」と6歳未満の子・孫を保育する「乳幼児保育」に関する生活時間の分析を試みた。
 このような分析を行った理由は、少子高齢化の進行、男女共同参画社会の実現といった社会情勢の中で、社会的関心の高い「老人介護」と「乳幼児保育」について生活時間の観点から分析することは、家庭における介護や保育の実状を把握する上で有用であり、かつ介護と保育の経済的統計を整備する基礎データになると考えたためである。

3.分析対象と留意事項

(1)調査対象

 平成8年社会生活基本調査の対象
 257,727人(年齢10歳以上)
 男性122,863人、女性134,864人
 96,443世帯
 *生活時間の調査時期は、平成8年10月1日前後

(2)集計事項

 調査対象者の生活時間の使用状況(1日当たり平均時間で表示。以下、すべて同じ。)と世帯構成、年齢、性別、就業状況等のクロス表を作成し、生活時間と個人属性・世帯属性の関係を読み取ることとした。
 作成したクロス表は次の7種類であり、Excelファイル形式(561KB)で作成されている。
 なお、クロス表は個表データの単純集計結果であり、調査対象者の年齢・性別構成や調査対象曜日の偏りを調整する等の統計処理は行っていない。

(老人介護)
①世帯介護時間と自宅内外介護・世帯員数・年収・居室数
 ふだん65歳以上の家族を介護している世帯について、世帯全体の介護時間を算出し、自宅内外介護・世帯員数・世帯年収・居室数との関係を明らかにする。
②若年夫婦世帯の介護の分担状況
 ふだん65歳以上の家族を介護している世帯のうち、夫の年齢が20~50歳代の夫婦世帯について、夫婦の就業状況と介護時間の関係を明らかにする。
③介護者の属性別の生活時間
 ふだん65歳以上の家族を介護している人について、性別・年齢別・就業状況別に生活時間の使用状況を明らかにする。
④非介護者の属性別の生活時間
③の対照表として、ふだん65歳以上の家族を介護していない人について、性別・年齢別・就業状況別に生活時間の使用状況を明らかにする。

(乳幼児保育)
⑤世帯保育時間と保育の分担状況
 6歳未満の子がいる夫婦世帯について、世帯全体の保育時間を算出し、世帯構成、夫婦の就業状況、子の数・年齢等との関係を明らかにするとともに、夫婦やその親の保育時間の分担状況を明らかにする。
⑥保育者の属性別の生活時間
 6歳未満の子または孫が世帯にいる人について、性別・年齢別・子や孫の数別等に生活時間の使用状況を明らかにする。
⑦非保育者の属性別の生活時間
⑥の対照表として、6歳未満の子または孫が世帯にいない人について、性別・年齢別に生活時間の使用状況を明らかにする。

(3)留意事項

 上記のような分析事項は、社会生活基本調査から得られるデータの範囲で可能と考えられるものを選び出したものであるが、そもそも社会生活基本調査は、このような特定分野の詳細分析のために設計された調査ではない。例えば、この分析で「老人介護時間」や「乳幼児保育時間」とみなした生活時間については、わずかながら老人や乳幼児を対象としない介護・保育時間が含まれている可能性がある。このように、基礎データの制約上、この分析結果にはある程度の不正確さが含まれることに留意する必要がある。
 また、老人介護や乳幼児保育の問題は、生活時間だけで論じることができるものではない。例えば、老人介護の家族負担を考えるならば、被介護老人の要介護度や家族が行っている介護の内容等も考え合わせる必要がある。今回の分析結果は、あくまでも介護や保育の問題を考えるに当たっての一つのデータに過ぎない。

4.分析結果の概要

 今回の分析結果については、各利用者自身がクロス集計結果表から介護・保育・男女共同参画等の関心分野に応じてデータを読み取っていただくことが望ましいが、いくつか特徴的な結果を挙げると、次のとおりである。

(1)老人介護の分析

  1.  介護世帯比率・自宅内介護・自宅外介護
    • 「ふだん65歳以上の家族を自宅内または自宅外で介護している」と回答した人がいる世帯(介護世帯)は、調査世帯の4.7%であった。
    • 介護世帯のうち、自宅内介護世帯は62.6%、自宅外介護世帯*は35.5%であった。
      *自宅外介護は、必ずしも被介護老人が介護施設に入所していることを意味しない。
    • 自宅内介護比率と世帯員数・世帯年収・世帯居室数の関係を見てみると、世帯員数が多いほど、世帯居室数が多いほど自宅内介護比率が高くなる傾向が見られる(図1、2)が、世帯年収とは明瞭な関係が認められなかった。
  2. 世帯介護時間と自宅内外介護・世帯員数・世帯年収
    • 介護世帯の世帯単位の介護時間(世帯介護時間)は1時間23分で、自宅内介護の場合は1時間30分、自宅外介護の場合は1時間13分であった。
    • 介護世帯について、世帯介護時間と世帯員数・世帯年収の関係を見てみると、自宅内介護世帯については明瞭な関係は認められなかったが、自宅外介護世帯では、世帯員数が多いほど、世帯年収が低いほど、介護時間が長くなる傾向が見られた(図3、4)。
  3. 若年夫婦世帯の介護時間とその分担
     老親の介護を行う夫婦世帯における介護の分担状況を見るため、ふだん65歳以上の家族を介護している夫婦世帯であって、夫の年齢が20歳代~50歳代の夫婦(「若年夫婦」という)世帯を取り出してみた(図5)。
    • ふだん65歳以上の家族を介護している若年夫婦世帯は、介護世帯の39.1%を占める。世帯介護時間は1時間8分であり、夫8分、妻41分、その他の家族18分である。
    • 妻の就業状況と介護時間の関係を見てみると、夫のみ有業世帯の世帯介護時間は1時間26分で妻の介護時間は1時間、妻が世帯介護時間の7割を担っており、共働き世帯でも、世帯介護時間は59分で妻の介護時間は32分、妻が世帯介護時間の55%を担っている。
  4. 介護者の介護時間・介護量
    • ふだん65歳以上の家族を介護している人(介護者)は調査対象者の2.7%であり、介護者の男女比率は37:63で、男性の平均介護時間は29分、女性の平均介護時間は1時間11分と、女性が家族介護の主たる担い手になっていることがわかる。
    • 介護者数にその平均介護時間を乗じた数値(単位:人・時)を「介護量」と考えると、女性の介護量は総介護量の80%に達し、特に、仕事を持たずに家事をしている女性の介護量は全体の45%を占める。
      介護者の性別・年齢別に介護時間を見てみると、男性は60~70歳代になって介護時間が急増しているが、女性は年齢に比例して介護時間が増加している。また、男性の場合、各年代とも自宅外介護時間が自宅内より長いが、女性の場合、40~50歳代で自宅内介護時間の方が長い(図6図7)。
    • 介護量でみると、女性の60歳代の介護量は全体の25%、70歳代でも20%に達しており、男性の70歳代の介護量も全体の10%を占める。
  5. 介護者と非介護者の生活時間の比較
     介護者とふだん65歳以上の家族を介護していない人(非介護者)の生活時間を比較してみた。
    • 介護負担と就業の関係が問題となりやすい女性40歳代における介護者と非介護者の生活時間を比較してみると、介護者は介護時間のみならず家事時間が長くなる一方、仕事や余暇活動等の時間が短くなっている(図8)。
    • ふだん主に仕事をしている女性で介護者と非介護者の生活時間を比較してみると、介護者の仕事時間はむしろ非介護者より若干長く、さらに家事時間も長くなる一方、余暇活動等の時間が短くなっている(図9)。

(2)乳幼児保育の分析

  1. 保育世帯比率・2世代世帯・3世代世帯
    • 「6歳未満の子供がいる」と回答した夫婦+子世帯(2世代世帯)と夫婦+子+夫婦の親世帯(3世代世帯)を「保育世帯」*とすると、保育世帯は調査世帯の12%であった。
      * 母子・父子世帯は、片親だけに保育負担がかかる特異性があるため、分析対象に含めなかった。
    • 保育世帯のうち、2世代世帯は77%、3世代世帯は23%であった。
    • 夫のみ有業の保育世帯における3世代世帯比率は17%であるが、夫婦共働きの保育世帯における3世代世帯比率は33%であり、夫婦共働きの保育世帯は夫婦の親との同居率が高い。
  2. 世帯保育時間と世帯構成・世帯年収
    • 保育世帯の世帯単位の保育時間(世帯保育時間)は3時間2分で、2世代世帯の場合は2時間54分、3世代世帯の場合は3時間29分であった。
    • 世帯保育時間と世帯年収の関係については、明瞭な関係は認められなかった。
  3. 保育世帯の保育時間とその分担
     保育世帯における夫婦・夫婦の親の保育時間の分担状況を、世帯構成と夫婦の就業状況の関係で見てみた(図10)。
    • 世帯保育時間が最も長いのは夫のみ有業の3世代世帯で4時間7分、最も短いのは夫婦共働きの2世代世帯で2時間5分であり、その主たる差は、夫婦の親の保育時間ではなく、妻の保育時間(差:1時間34分)である。
    • 妻の保育時間は、夫婦共働きの3世代世帯で最も短く(1時間32分)、夫のみ有業の3世代世帯で最も長い(3時間14分)。しかし、世帯保育時間に占める妻の保育時間の割合は、夫婦共働きの3世代世帯でも5割を超えており、夫のみ有業の2世代世帯では9割近くが妻の保育時間である。
    • 夫の保育時間は、世帯構成や妻の就業状況によって大きな違いはなく、常に30分未満の低い水準である。
    • 夫婦の親の保育時間は、夫婦共働きの場合(1時間7分)が夫のみ有業の場合(28分)の倍以上となっている。しかし、共働き2世代世帯と共働き3世代世帯の妻の保育時間には大差なく(9分短縮)、3世代同居によって妻の保育時間が大幅に短縮されるわけではない。
  4. 妻の勤務状況と保育時間
     夫婦共働き世帯について、妻の勤務状況と保育時間の関係をさらに細かく見てみた。なお、保育に最も時間がかかる乳児期には、妻が離職している可能性が高く、妻の勤務状況と保育時間の関係を見るに当たっては留意が必要となる。
    • 妻が正規職員の場合は、パート等のときに比べ、夫・妻・夫婦の親とも保育時間が長くなっており(2世代世帯の夫:19分→34分、同妻:1時間23分→1時間52分、夫婦の親:53分→1時間29分)、世帯保育時間も大幅に長くなっている。
    • 妻の勤務時間と保育時間については、あまり明瞭な関係が認められないが、2世代世帯の夫の保育時間は、妻の勤務時間が長いとわずかながら長くなるようである(図11)。
  5. 子の年齢・人数・在園状況と妻の保育時間・生活時間
     子の年齢・人数・保育所等に在園しているか否かと妻の保育時間・生活時間の関係を見てみた。
    • 6歳未満の子が1人でも2人以上でも、子の年齢が上がるにつれ、妻の保育時間は顕著に減少している。ただし、子が2人以上の場合は、保育時間の減少の程度はやや少ない(図12)。
    • 6歳未満の子を2人以上持つ妻の保育時間(3時間1分)は、子が1人の妻の保育時間(2時間10分)より50分程度長く、この場合、家事の時間も長くなる一方、仕事と余暇活動等の時間が短くなっている(図13)。
    • 3歳の子を1人持つ妻の生活時間を保育所在園、幼稚園在園、在園無しに分けて見てみると、保育時間は順に1時間13分、1時間19分、1時間54分となる。子を保育所に通わせている妻の仕事時間は2時間44分と他に比べて大幅に長く、家事と余暇活動等の時間が短くなっている。子を幼稚園に通わせている妻は、子を在園させていない妻に比べ、仕事と余暇活動等の時間が長くなっている(図14)。
  6. 保育者と非保育者の生活時間
    • 6歳未満の子がいる世帯の家族(保育者)の生活時間を見てみると、夫と祖父は仕事時間が長く、妻と祖母は家事と保育の時間が長い。また、妻は仕事と余暇活動等の時間が短い(図15)。
    • 30歳代の妻について、6歳未満の子がいる人と6歳未満の子がいない人の生活時間を比較してみると、保育時間は前者が2時間14分、後者が17分である。この差は前者の仕事と余暇活動等の時間の減少によって埋め合わされており、特に仕事時間の減少が大きい(図16)。
    • 6歳未満の子がいる夫婦の女親(祖母)で60歳代の人と同世代の女性で同居の孫がいない人の生活時間を比較してみると、保育時間は前者が45分、後者が4分である。この差は前者の仕事と余暇活動等の時間の減少によって埋め合わされており、余暇活動等の時間の減少がやや大きい(図17)。