平成9年度調査:企業行動に関するアンケート調査(平成10年(1998年)4月15日公表)                         「日本的経営システムの再考」 Annual Survey of Corporate Behaviors

調査の背景

80年代においては日本経済の強さの源泉として評価された「日本的経営」は、90年代においては全く異なった評価を受けている。バブル崩壊後の地価・株価の下落、不良債権問題の深刻化のなか我が国企業は財務状況を悪化させ、急激な円高や経済のグローバル化による国際競争の激化のなかで厳しい立場に立たされている。また、昨今の企業における不祥事の多発は、我が国企業における企業統治の在り方に根本的な問いを投げかけている。

このように、現在、これまで日本経済の特長と考えられ、経済の安定や成長力の源泉と考えられてきた様々な仕組み(「日本的経営システム」)に対する信頼感が揺らいでおり、我が国企業はこうした「日本的経営システム」の見直しを迫られている。しかしながら、戦後日本経済の繁栄を支えてきた仕組みには普遍的な強みが存在するはずであり、システムの変更にあたっては新旧の仕組みに対する冷静な分析と評価が必要であると考えられる。

こうしたことから、今回の「企業行動アンケート調査」では、従来からの調査を継承して、我が国企業の経営環境と経営基本方針を調査するとともに、「雇用方針の在り方」、「企業組織の在り方」及び「コーポレートガバナンスの在り方」の3つの視点から、「日本的経営システム」の再評価を行い、今後の経営システムの在り方を展望した。

調査結果の概要

  1. 経営環境と経営基本方針

    我が国企業は、平成10年度の実質経済成長率について、全産業平均で0.9%を見込んでいる。中期的な見通しについては、今後3年間(平成10~12年度)では1.4%(年平均)、今後5年間(平成10~14年度)では1.7%(年平均)を見込んでいる。過去の調査と比較すると、単年度では平成6年度以来の低水準となっており、今後3年間及び5年間ではいずれも、同一の基準で比較できる昭和61年度以降で最低の水準となっている。 (図1)(表1)

    また、輸出企業の平成10年1月時点での採算円レートは、 110.4円と昨年に続き下落したが、昨年同様、調査直前の円レート(9年12月の円レートは129.5円)よりも円高水準となっており、本年はその乖離幅が拡大しており、輸出を下支えする要因となっているものと考えられる。 (図2)(表2)

  2. 雇用方針の在り方

    (1)雇用方針の現状と今後

    「長期継続的雇用」、「年功主義的処遇」、「長期的観点からの人材育成」、「福利厚生の充実」からなる雇用方針を「従来からの方針」、「長期継続性を前提としない雇用」、「能力主義的処遇」、「即戦力・専門性を重視した人材確保」、「福利厚生の絞り込み」からなる雇用方針を「新たな方針」と定義して調査を行った。

    企業の雇用方針の現状では、処遇面や福利厚生面において、既に能力主義的処遇や福利厚生の絞り込みが主流とする企業の割合もある程度高いものの、全体としては、「日本的雇用慣行」と称される「従来からの方針」が、企業経営において主流となっている。今後5年間の変化については、雇用形態面において長期継続的雇用の重要性が高まるとする企業が依然過半数を占めているものの、処遇面において能力主義的処遇の重要性が高まるとする企業が9割以上を占めるなど、全体としては「新たな方針」の重要性が高まるとしている。 (図3)

    新たな雇用方針に関することとして、現在までに行なっている企業割合に比べ、今後5年間にその実施を検討する企業割合が高まるものとしては、「年俸制の導入」、「抜擢・降格人事の実施」、「専門職制等、複線型人事制度の導入」、「ストック・オプション制度の導入」等となっている。 (図4)

    従来からの方針と新たな方針を総体的にみたとき、5年後にいずれの雇用方針が経営上主流になっているかについては、「新たな方針が主流」(「どちらかといえば主流」を含む、以下同じ)とする企業が67.4%、「従来からの方針が主流」とする企業が32.6%となった。

    (2)従来からの方針、新たな方針のメリット

    従来からの雇用方針に関するメリットとしては、「従業員の企業への帰属意識・忠誠心が維持できる」(53.8%)、「長期的な観点からの教育投資が行える」(39.5%)、「雇用の安定が図れる」(38.6%)、「自社固有の技術・ノウハウに対する熟練により高い生産性が発揮される」(33.1%)などが多く挙げられている。また、新たな雇用方針に関するメリットとしては、「従業員の意欲や適正、能力等に応じた処遇・配置が可能である」(78.3%)、「業績向上のためのインセンティブとなり社内が活性化する」(57.9%)、「外部から優秀な人材を獲得することができる」(30.8%)などが多く挙げられている。

    (3)従来からの方針と新たな方針の最適な組合せ

    従来からの雇用方針と新たな雇用方針の最適な組合せを職種別にみると、企画・管理職では、長期継続的雇用中心とする割合が3つの職種のなかで最も高くなっている一方、能力主義的賃金中心とする割合も高く、従来からの長期継続雇用者を中心としつつ、能力主義的賃金を組み合わせることにより競争を促進しようとしているものと考えられる。専門職では、3つの職種のなかで外部からの人材登用や、能力主義的賃金の適用を最も積極的に行なおうとしており、新たな雇用方針に最も軸足を置いたものとなっている。一般職では、長期継続的雇用中心とする割合が高く、年功主義的賃金中心とする割合も3つの職種のなかで最も高いが、一方で外部からの人材登用にも比較的積極的であり、長期継続的雇用、年功主義的賃金による従来型の従業員と外部からの人材登用を組み合わせようとしているものと考えられる。 (図5)

  3. 企業組織の在り方

    (1)企業組織の現状と今後

    「ボトムアップによる意思決定」、「組織階層が多段階」、「事業部門レベルの独立性が低い」という特性を備えた企業組織を「従来からの組織」、「トップダウンによる意思決定」、「組織階層が簡素」、「事業部門レベルの独立性が高い」という特性を備えた企業組織を「新たな組織」と定義して調査を行った。

    意思決定面では、現状でもトップダウンによる意思決定が主流とする企業が多く、今後もその重要性が高まるとしており、また、組織階層面、事業部門の独立性面では、現状については、それぞれ「従来からの組織」が主流、「従来からの組織」と「新たな組織」がほぼ同程度となっているが、今後については、共に「新たな組織」の重要性が高まるとしている。 (図6)

    新たな組織に関することとして、現在までに行なっている企業割合に比べ、今後5年間にその実施を検討する企業割合が高まるものとしては、「各事業部門の独立性の強化」、「稟議制の廃止、簡素化」、「中間管理職の削減」等となっている。 (図7)

    従来からの組織と新たな組織を総体的にみたとき、5年後にいずれの企業組織が経営上主流となっているかについては、「新たな組織が主流」(「どちらかといえば主流」を含む、以下同じ)とする企業が74.2%、「従来からの組織が主流」が25.8%となった。

    (2)従来からの組織、新たな組織のメリット

    従来からの組織に関するメリットとしては、「指揮・命令系統が明確である」(44.3%)、「組織構成員の意思統一が図りやすい」(37.0%)、「情報の共有により業務運営が円滑化する」(29.9%)などが多く挙げられている。また、新たな組織のメリットとしては、「迅速な意思決定が可能となる」(65.5%)、「責任の所在が明確になる」(39.2%)、「事業の再構築、業務の効率化が容易となる」(32.5%)、「組織の風通しがよくなり組織が活性化する」(32.2%)などが多く挙げられている。

    (3)従来からの組織と新たな組織の最適な組合せ

    従来からの組織と新たな組織の最適な組合せを部門別にみると、企画・管理部門では、トップダウン型の意思決定とする割合が3つの部門のなかで最も高くなっているほか、簡素で各部門の独立性の高い組織とする割合も高くなっており、全体としては新たな組織に最も軸足を置いたものとなっている。他方、より現場に密接している製造・販売部門や研究・開発部門では、意思決定面で従来からのボトムアップ型を望ましいとする割合が比較的高く、現場からの情報をより効果的に汲み上げようとしているものと考えられる。これらの部門について組織形態面をみると、いずれも簡素で各部門の独立性が高い組織が望ましいとするものが多く、従来型の意思決定の活用と新たな組織形態を組み合わせたものを望ましいと考えている企業が多いものと考えられる。 (図8)

  4. コーポレートガバナンスの在り方

    (1)コーポレートガバナンスの現状と今後

    「内部昇進による経営陣」、「メインバンク」、「株式持合い相手」及び「監督官庁」を「従来からの主体」、「一般株主」、「国内機関投資家」、「海外機関投資家」及び「株式投資、企業買収を検討する潜在的株主(以下「潜在的株主」という)」を「新たな主体」と定義して調査を行った。

    コーポレートガバナンスの現状では、「内部昇進による経営陣」を中心に従来からの主体の経営への影響力が強いとする企業が相対的に多いが、今後5年間の変化については、「潜在的株主」を除いて、新たな主体の影響力が強まるとする企業が多くなっている。しかし、「内部昇進による経営陣」については、現状で影響力が強いと回答する企業の割合が最も高く、かつ、今後5年間で影響力が強くなると回答する企業の割合も最も高くなっている。 (図9)(図10)

    新たな主体の経営への影響力行使に対し行うこととして、現在までに行っている企業割合に比べ、今後5年間にその実施を検討する企業割合が高まるものとしては、「株主への経営情報開示の充実」、「株主総会での議論の充実」、「株価に配慮した経営」等となっている。 (図11)

    従来からの主体と新たな主体を総体的にみたとき、今後5年後にいずれの主体の経営への影響力が強くなっているかについては、「従来からの主体の影響力が強い」(「どちらかといえば強い」を含む、以下同じ)とする企業が62.5%、「新たな主体の影響力が強い」とする企業が37.5%となった。

    (2)従来からの主体、新たな主体のメリット

    従来からの主体の関与するコーポレートガバナンスのメリットとしては、「長期的な視点からの経営が可能」(69.6%)、「内部昇進者の専門的知識、経験が十分活用できる」(51.0%)、「安定的な取引先(金融機関を含む)の確保が可能」(42.6%)などが多く挙げられている。また、新たな主体の関与するコーポレートガバナンスのメリットとしては、「経営に関する意思決定について外部からの透明性が確保」(53.9%)、「大胆な事業の再構築を行うのが容易」(31.0%)、「迅速な経営方針の変更が容易」(30.3%)などが多く挙げられている。

    (3)従来からの主体と新たな主体の最適な組合せ

    経営基盤強化の観点からみた、従来からの主体と新たな主体との最適な組合せについては、「従来からの主体の影響力が中心で新たな主体の影響力も一部」が最も多く挙げられた。コーポレートガバナンスに関与する主体として、従来からの主体のうち影響力が残ることが望ましいものとしては、「内部昇進による経営陣」(88.5%)、「メインバンク」(25.4%)で高い割合となり、新たな主体のうち影響力が強まっていくことが望ましいものとしては、「一般株主」(77.6%)、「国内機関投資家」(34.2%)を挙げる企業が多くなった。 (図12)

    また、こうした望ましい状況が実現した場合に、より容易に行うことが可能になることについては、「シェア重視の経営を収益重視の経営へ変更する」(55.0%)、「大胆な事業再構築の実施」(54.3%)、「収益性の低い株式持合い先の株式の売却」(36.8%)などを挙げる企業が多くなっている。 (図13)

まとめ

以上のように、今回の調査では日本的経営システムの再考として、雇用方針、企業組織及びコーポレートガバナンスに関与する主体について、それぞれ従来型の仕組みと近時その有効性が指摘されている新たな仕組みとを比較して、その現状、今後の動向、望ましい組合せ等について調査した。

現状については、雇用方針では、長期継続的雇用、年功主義的賃金、企業組織では、組織階層が多段階な組織、コーポレートガバナンスに関与する主体では、内部昇進による経営陣がそれぞれ主流であるとする企業が多数を占めるなど、多くの企業で依然従来型の日本的システムが主流であるとの結果になった。

他方、今後55年間の動向については、雇用方針では、能力主義的処遇、福利厚生の絞り込み、企業組織では、組織階層が簡素で各事業部門の独立性が高い組織、コーポレートガバナンスに関与する主体では、一般株主や機関投資家の重要性、影響力が高まるとする企業が多数を占めるなど、多くの企業で今後従来型の日本的仕組みとは異なった新たな仕組みの重要性、影響力が高まるとの結果になった。

しかし、今後5年後に、従来からの仕組みと新たな仕組みを総体としてみた場合、雇用方針、企業組織、コーポレートガバナンスに関与する主体のいずれにおいても、「どちらかと言えば従来からの仕組みが主流」又は「どちらかと言えば新たな仕組みが主流」とする企業が圧倒的に多く、今後新たな仕組みの重要性、影響力が高まっていくということの意味は、必ずしもこれら新たな仕組みが従来型の日本的経営システムに取って代わるということを意味するものではなく、従来からの仕組みに新たな仕組みを取り入れて活用していくという企業の考え方を反映したものであることが明らかになった。

具体的には、(1)雇用方針では、企画・管理職において従来型の長期継続的雇用を維持しつつ能力主義的処遇を導入する一方、専門職においては能力主義的処遇の導入に併せ外部からの人材登用も積極的に行うこと、(2)企業組織では、製造・販売部門や研究・開発部門において、意思決定面で従来からのボトムアップ型を活用し、現場からの情報をより効果的に汲み上げつつ、簡素で各部門の独立性が高い新たな組織を組み合わせること、(3)コーポレートガバナンスに関与する主体では、内部昇進による経営陣を中心とした従来型の主体を基本に、一般株主を中心とした新たな主体の影響力が強まっていく状況などが望ましい組合せとして多くの企業から挙げられた。

このように、企業は、今後、経営基盤強化の観点から、職種や部門等に応じ従来からの仕組みと新たな仕組みを組み合わせて活用していくこととなろう。

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