経済分析第201号経済分析第201号(ジャーナル)

令和3年2月
(論文)
情報開示の有無を考慮した女性活躍推進と企業業績の関係
西畑 壮哉(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
山本 勲(慶應義塾大学商学部教授)
設備投資とqの関係性の変化:上場製造業企業のパネルデータを用いた分析
石川 貴幸(立正大学経済学部、一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程在籍)
個人の主観的な期待収益が進学希望や進学格差に与える影響(大学進学率の地域差を用いた実証分析)
森安 亮介(慶應義塾大学大学院 商学研究科 後期博士課程、みずほ情報総研株式会社 社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント)
公立病院再編における費用削減効果
五十川 大也(大阪市立大学大学院経済学研究科)
大橋 弘(東京大学大学院経済学研究科)
古田 早穂子(日本銀行)
(資料)
ESRI国際コンファレンス
「AI、ロボティックスと労働市場」(概要)
編集 経済社会総合研究所

経済社会総合研究所の概要と実績


(要旨)

(論文)

情報開示の有無を考慮した女性活躍推進と企業業績の関係

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社/西畑 壮哉

慶應義塾大学商学部教授/山本 勲

本稿では、女性の従業員数や管理職数に関する情報開示の有無によるサンプル・セレクション・バイアスの可能性を考慮したうえで、女性活躍推進の状況と企業業績の関係を検証した。2010年から2015年の上場企業のパネルデータを用いた分析の結果、従業員女性比率(男女計の従業員数に占める女性従業員数)が高いほどROA(総資産経常利益率)やTFP(全要素生産性)で測定される企業業績が高まるといった有意な関係性は確認されなかった。また、管理職女性比率(男女計の管理職数に占める女性管理職数)と企業業績の間にも有意な関係性は観察されなかった。一方、女性管理職登用率(女性従業員数に占める女性管理職数)が高いほど企業のTFPが有意に向上することが示され、特に、女性管理職登用率については15%~20%という水準で企業の生産性が向上することが明らかになった。これらの影響は、サンプル・セレクション・バイアスに対処したときに大きくなり、女性雇用に関する情報を開示している企業のデータのみを利用した場合、その影響を過少評価する可能性があることを示唆している。これらの結果は、女性の賃金が不当に低く抑えられていることを前提としたBecker(1971)の使用者差別仮説の含意とは必ずしも一致せず、最近の日本の労働市場においては労働生産性の向上を通じて、女性活躍推進が企業業績に影響することを示唆している。

JEL Classification Codes:J71, J31, L25

Keywords:女性活躍推進、使用者差別仮説、サンプル・セレクション・バイアス


設備投資とqの関係性の変化:上場製造業企業のパネルデータを用いた分析

立正大学経済学部、一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程在籍/石川 貴幸

本研究は、設備投資比率とTobinのqの関係を、上場している日本の製造業企業のパネルデータを用いて分析したものである。これまで多くの投資関数の推定では、説明変数としてTobinのqとad hocに変数を加えることで資金制約などの議論を行ってきた。しかし本研究の結果から、(1) qと投資比率の関係は1997年付近を境に変化していること、(2) この1997年の構造変化が今日まで続いていること、(3) qの構造変化を考慮するか否かで資金制約の推定に過誤が生じる可能性が指摘された。以上の3つの結果は、以下の政策的含意を有している。第一に、qと投資比率の関係が変化しているために、日本では近年の景気回復にもかかわらず投資が伸びていなかったことが説明できる。第二に、資金制約の推定に過誤が存在していることによって、適切な企業分析や政策評価がなされてこなかった可能性がある。qと設備投資の関係が変化した原因を追究することは今後の課題である。

JEL Classification Codes:E22, E60, G31

Keywords:限界q、資金制約、設備投資、長期停滞


個人の主観的な期待収益が進学希望や進学格差に与える影響(大学進学率の地域差を用いた実証分析)

慶應義塾大学大学院 商学研究科 後期博士課程、
みずほ情報総研株式会社 社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント/森安 亮介

本稿は、東京大学「高校生の進路についての追跡調査」個票データを用い、高校3年時点に生徒本人の認識する主観的な大卒賃金プレミアムが大学進学希望に及ぼす影響について検証している。さらに、こうした主観的なプレミアムの形成要因について、大学進学に関する情報取得経路に着目し、都市・地方間の違いを検証している。

結果、次の3点が明らかになった。第1に、Beckerの理論に沿えば賃金プレミアムが高いほど進学を希望することとなるが、分析の結果、有意に大学進学希望を高めていたのは生徒の主観的な大卒賃金プレミアムであった。第2に、そうした主観的な賃金プレミアムは都市圏に比べて地方圏の生徒の方が有意に低かった。このことから、主観的な賃金プレミアムの違いが地域進学格差の一因である可能性が示唆された。ただし、その影響は、世帯年収や親の学歴など家族の経済社会属性の影響によって多くの部分が帰着されることも明らかになった。第3に、主観的なプレミアムの生成要因として情報経路に着目して推計した結果、都市圏では「塾・予備校の先生」や学校(「学校の先生」、「進路指導」)、「オープンキャンパス」、「学校のガイドブック」、「家族」など多様な情報経路が大卒賃金プレミアムを高めていたのに対して、地方圏では「学校のガイドブック」以外に有意な経路は無かった。

JEL Classification Codes:D84, J24, I21, I24

Keywords:Perceived Return、賃金プレミアム、進学の地域格差、情報、Multilevel analysis


公立病院再編における費用削減効果

大阪市立大学大学院経済学研究科/五十川 大也

東京大学大学院経済学研究科/大橋 弘

日本銀行/古田 早穂子

本稿では公立病院の経営指標に関する個票データを用いて、病院再編が効率性に資する影響を定量的に評価する。再編の内生性を考慮して推定を試みたところ、公立病院の再編は医業費用を2割近く下落させることが明らかになった。なかでも、特に給与費や材料費に対して効率性効果が大きく寄与していることが分かった。なお、医業費用の約半分を占める給与費において、再編によって医師や事務員の数が大きく減少している一方で、看護師や医療技術員の数は逆に増加しており、平均給与が高い医師の減少分を代替する過程で他の職種の雇用が増加している可能性が指摘された。他方で、残された医師の平均給与や平均経験年数は、再編後に上昇していた。また、再編によって病院規模の縮小が同時に生じていることも明らかになった。

JEL Classification Codes:G34, I18, L11

Keywords:病院再編、効率向上効果、パネルデータ分析


(資料)
ESRI国際コンファレンス
「AI、ロボティックスと労働市場」(概要)

編集 経済社会総合研究所

日時:
令和元年7月30日(火)9:30-18:00
場所:
東海大学校友会館(霞ヶ関ビルディング35階)

当研究所では、AIをはじめとする新しい技術が労働市場を中心に経済社会に及ぼす影響を理解し、より効果的な経済政策を探るための有益な示唆を得ることを目的として、「AI、ロボティックスと労働市場」をテーマとして国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きますにて刊行しております。

全文の構成

(論文)

情報開示の有無を考慮した女性活躍推進と企業業績の関係(PDF形式 1.09 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

西畑 壮哉・山本 勲

  1. 3
    1.はじめに
  2. 5
    2.データ
  3. 9
    3.分析手法
  4. 10
    4.推定結果
  5. 15
    5.結びにかえて
  6. 16
    参考文献

設備投資とqの関係性の変化:上場製造業企業のパネルデータを用いた分析(PDF形式 1.3 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

石川 貴幸

  1. 19
    1.はじめに
  2. 22
    2.データ
  3. 23
    3.クロス・セクション分析:投資比率とqの関係の時系列変化
  4. 28
    4.パネルデータ分析
  5. 33
    5.おわりに
  6. 35
    補論.qの構築
  7. 37
    参考文献

個人の主観的な期待収益が進学希望や進学格差に与える影響
(大学進学率の地域差を用いた実証分析)(PDF形式 1.23 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

森安 亮介

  1. 41
    1.はじめに
  2. 42
    2.先行研究の概観
  3. 44
    3.データと変数
  4. 49
    4.推計手法
  5. 51
    5.推計結果
  6. 58
    6.結論
  7. 60
    参考文献

公立病院再編における費用削減効果(PDF形式 1.25 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

五十川 大也・大橋 弘・古田 早穂子

  1. 64
    1.はじめに
  2. 66
    2.研究の背景
  3. 67
    3.データ
  4. 71
    4.再編が医業費用に与えた影響
  5. 82
    5.結論
  6. 83
    参考文献

(資料)

ESRI国際コンファレンス
「AI、ロボティックスと労働市場」(概要)(PDF形式 1.48 MB)PDFを別ウィンドウで開きます

編集 経済社会総合研究所

  1. 87
    基調講演:技術の変化へのAIによる対応
  2. 92
    セッション1:日本におけるAI、ロボティックス導入の労働市場への影響に関する実証分析
  3. 102
    セッション2:AI、科学的発見およびイノベーション
  4. 108
    セッション3:AIと経済成長
  5. 116
    パネル・ディスカッション:AI、ロボティックスは労働市場にどのように影響を及ぼすか?
  6. 126
    (参考)発言者一覧

経済社会総合研究所の概要と実績(PDF形式 768 KB)PDFを別ウィンドウで開きます

  1. 127