ESRI Discussion Paper No.360 実質為替レートの慣性のパズルに対する行動経済学的説明
2021年3月
- Mario J. Crucini
- Department of Economics,Vanderbilt University 教授
- 新谷 元嗣
- 東京大学大学院経済学研究科教授
- 敦賀 貴之
- 大阪大学社会経済研究所教授
要旨
実証的に観察される購買力平価からのかい離(実質為替レート)の慣性を名目価格の硬直性だけでは十分に説明できないことは長らくパズルとされてきた。また、購買力平価の基本である一物一価法則については、一物一価法則からのかい離(個別財価格で測った実質為替レート)は購買力平価からのかい離と比べて慣性が低く、その差を説明することは難しいことも知られている。これらの実証的事実を説明するため、本稿では、Gabaix(2014, 2020)による行動経済学的な不注意のモデルを単純な2国粘着価格モデルに適用する。このモデルを用いて、ミクロ価格データを用いた行動経済学的不注意に関する統計的テストを提案し、米国とカナダのミクロ価格データから、行動経済学的不注意の仮説と矛盾しない実証結果が得られた。また、統計的なテストから得られた不注意度の推計値を用いて購買力平価や一物一価法則のかい離の慣性を理論予測すると、上述の実証的事実が説明できることが分かった。具体的には、購買力平価からのかい離は、粘着価格のモデルよりも慣性は2倍高く、一物一価法則からのかい離の慣性は、購買力平価からのかい離の3分の2以下となる。
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実質為替レートの慣性のパズルに対する行動経済学的説明(PDF形式:838KB)
全文の構成
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Introduction2ページ
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The model4ページ
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Theoretical implications for LOP deviations12ページ
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A test of behavioral inattention16ページ
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Explaining the PPP puzzle21ページ
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Conclusion26ページ