ESRI Discussion Paper No.399 キャパシティ制約と非効率なサービス提供:介護施設の理論と実証
2025年3月
- 猿谷 洋樹
- 内閣府経済社会総合研究所研究官、上智大学客員研究員
- 髙橋 雅生
- 上智大学特任助教
要旨
本研究では、キャパシティ制約下での医療・介護サービス供給における非効率性を分析した。まず、医療・介護施設がキャパシティ制約及び誘発需要動機を踏まえて入所数・退所数の意思決定を行う経済理論モデルを開発した。モデルから導出される行動及び効率性に関する主要なインプリケーションは以下の通りである。 (1)キャパシティ制約によれば、稼働率の変動に対する入所・退所の反応はベースライン(変動前)の稼働率が高いほど大きくなる。他方で、誘発需要動機によれば、稼働率の変動に対する入所・退所の反応はベースラインの稼働率が低いほど大きくなる。これにより、両メカニズムの相対的重要性は実証的に検証可能である。 (2)キャパシティ制約の影響の方が重要である場合には、同質的な施設の間で稼働率を平準化することでサービスの総供給量を増加させることができる。 次に、上記の理論的枠組みに基づいて日本の介護老人保健施設に関する実証分析を行った。その際、施設内での利用者の死亡を外生的な稼働率ショックとして利用した。分析の結果、稼働率変動に対する入所反応は主にキャパシティ制約によって説明されることが判明した。また、シミュレーションの結果、施設間で稼働率を平準化することによって、キャパシティ増設を伴わずとも総入所が大幅に増加し得ることが判明した。これにより、現状における介護施設へのアクセスが非効率であることが示唆された。
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全文の構成
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1 Introductionpage 2
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2 Institutional Backgroundpage 8
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3 Conceptual Frameworkpage 11
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4 Datapage 18
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5 Empirical Strategypage 20
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6 Resultspage 26
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7 Discussionspage 33
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8 Conclusionpage 38
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Appendix A Additional Figures and Tablespage 40
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Appendix B Proofspage 49
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Appendix C Theory of Reallocationpage 51