EBPMの現在地と今後の展望 ~社会保障分野におけるEBPM活用の可能性~
古井 祐司
東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授
自治医科大学 客員教授
経済・財政一体改革推進委員会では、「経済・財政新生計画」において、限られたリソースから高い政策効果を生み出すため、EBPMの強化を図っています。こうした中、重要施策に係るロジックモデルの構築や分析・検証の方法等を盛り込んだEBPMアクションプランを策定する等の取組を進めてきました。今後は、同プランを基に、EBPMの実践と政策への反映が期待される段階に入ります。
今回は、社会保障分野でのEBPMの実践と普及に取組み、一体改革委社会保障ワーキンググループに御参画いただいている古井祐司東京大学未来ビジョン研究センター特任教授に、EBPMの現状と今後の展望についてお話を伺いました。
EBPMを取り巻く状況について
――骨太方針においても、「政府全体のEBPMの取組を強化する」ことが明記され、政策立案におけるEBPMに対する期待は大きくなってきていますが、意識の高まりや浸透についてどのように考えられますか。
(古井氏)これまで自治体や保険者の多くは、何となく現行の施策を運営してきた面があったかと思います。しかし、EBPMアクションプランによりロジックモデルと評価指標が示されたことで、施策の目的と効果の測定方法が明確になりました。
これにより、国・都道府県が市町村や保険者へ説明・助言を行う際にも、具体的な根拠に基づいて方針を示しやすくなっています。実際、説明資料の中でもアクションプランの内容が積極的に活用され、現場では自信を持って政策の方向性を語れるようになっています。
こうした取組みを通じて、「EBPMは国として重要な政策手法である」という認識は自治体や保険者に確実に浸透してきたと感じます。一方で、KPIを自治体間で比較し、効果の高い施策を抽出・共有して地域格差を是正し、全国のレベルを引き上げていくというEBPMの本質まで理解している担当者は、まだ多くはないと思います。現時点では、まずEBPMの枠組みを理解しながら施策を実行し、その過程を通じて本質が徐々に広がっていくことを期待しています。
また、東京大学が毎年3月に開催している「データヘルス・シンポジウム」では、内閣府から全国の自治体・保険者に政策動向が説明されています。データヘルス計画における共通の評価指標(KPI)の設定率も、健保・国保ともにほぼ100%に達しました。これはEBPMが政策運営の中に確実に組み込まれ始めたことを示す、重要な一歩だと考えています。
さらに、若い世代への理解促進も進めています。骨太方針2025で示された「国民の理解促進」の方向性を受け、本年度から高校生・大学生を対象とした「骨太方針 Student Session」を本学が主催し、内閣府に後援いただく形で開始しました。今年度は社会保障をテーマとし、内閣府と厚生労働省からの講義の後、学生たちが議論を深め、社会に向けて多様な提言を行いました。日本の社会保障制度の現在地や国民皆保険制度の意義に対する理解が深まり、若い世代ならではの率直で独創的な視点が示されたことは大きな成果です。特に、骨太方針が一年かけて丁寧に議論され、幅広い分野を扱うことに学生たちは驚いていました。
最近感じるのは、SDGsを義務教育で学んだ世代が増えてきたことで、学生の意識に明らかな変化が生まれていることです。以前は社会課題の解決やデータ活用に関心を示す学生は一部に限られていましたが、現在では多くの学生が自然に「社会課題」という言葉を使い、「社会と自分をどうつなぐか」という視点で語るようになりました。こうした若い世代の意識の変容と高まりは、将来の政策形成やEBPMの発展に向けて非常に心強い動きだと捉えています。
経済・財政一体改革推進委員会におけるEBPMの取組について
――経済・財政一体改革推進委員会では、昨年度EBPMアクションプラン2024を策定し、今回は分析・検証を見据えた改訂や議論が行われましたが、一体改革委における成果と今後への期待を教えてください。
(古井氏)これまでの政策立案では、社会課題に対してどの政策が最も適合するのかという科学的根拠が十分でなく、既存政策の「焼き直し」になりがちでした。結果として、施策は「作って終わり」になり、社会課題の多様化に十分対応できないという課題がありました。
こうした状況に対し、一体改革委がEBPMアクションプランを策定したことで、“どの条件下で、どのような手法が効果的か”を検証し、改善する仕組みを政策運営に組み込むことができた点は大きな成果です。
EBPMが導入されると、データを通して社会課題の構造と施策との因果関係がより明確になります。例えば介護分野において、職員の残業時間や離職率といった働き方指標が悪化している自治体ほど、ICT・介護ロボットの導入率やケアプランデータ連携システムの活用度が低いという傾向が見られるとします。その場合、単に報酬水準だけではなく、デジタル環境の未整備や業務負担軽減の遅れが職員の負担増につながっている可能性を示唆することができます。
こうした構造が把握できれば、介護報酬や人員配置の見直しを個別に行うのではなく、ICT・介護ロボットの導入環境の整備や、デジタル教育支援、生産性向上推進体制加算の取得促進等を組み合わせることで、残業時間の減少や離職率の低下につながる制度設計が可能です。これらはアクションプランに位置づけられた中間・最終アウトカム指標によって定量的に検証できます。
今回は分析・検証の一年目ではありましたが、従来の「予定通り実施したか」を確認するだけではなく、政策と目標の距離を可視化できたことが大きな進展でした。この可視化により、目標との差が大きい領域や、複数分野を横断しなければ解決できない課題が明らかになってきています。
例えば少子化対策では、最終的には合計特殊出生率や希望との乖離縮小等を見据えていますが、一直線に進むことはできません。保育・学童の受け皿、住宅費、通勤時間、長時間労働、男性育休等、政策分野をまたぐ中間アウトカムを複数組み合わせる必要があります。地域によってボトルネックが異なる以上、「保育所を一律に増やす」といった画一的な発想では限界があります。そのため、保育・学童の量と質の向上に加え、住宅支援、交通利便性、柔軟な働き方の拡大を組み合わせ、ロジックモデルとKPIで毎年点検・修正することが、最終アウトカムに近づく現実的なアプローチになります。
一方で、政策分野・省庁間で比較手法が統一されていないこと、分野横断のデータ連携が不十分であること、EBPMを運用する人材にばらつきがあること等、改善すべき点はまだ多くあります。中でも最大の課題は「現場への実装」です。データ整備や分析、選択肢の提示はAIや外部専門家でも可能になる時代ですが、どの施策をどのように実装するかは現場でしか判断できません。いわば「政策のラストワンマイル」は現場の人材が担うしかありません。
そのためには、例えば異動期間を1~2年ではなく3年程度に延ばすことで、現場で一定の知見を蓄積できるようにすることが有効です。市町村ごとに専門人材を配置することが難しい場合でも、都道府県で育成し市町村を支援する体制をつくることで、自治体が動きやすくなります。データ分析で得られた知見を現場につなぐコーディネーター的役割を担う行政官の存在はますます重要になると考えています。
分野横断のデータ連携についても、現状では十分機能しているとは言えません。本来、データやDXの技術は医療、防災、エネルギー、地域づくり等多様な領域で連動するはずですが、省庁・部局ごとにデータ形式や収集単位、更新方法が異なるため、政策を横断して見る際に壁となっています。同じ住民を対象にした政策でも、全体像を一つの地図として捉えることが難しい状況です。
社会保障分野の内部でも、例えば厚生労働省の健康・生活衛生局と保険局ではアプローチは同じではありません。健康日本21のような健康づくり施策は着実に広がっていますが、保険局が持つレセプト・健診データを活用したマネジメントと十分に連動しているとは言えず、真の成果につなげるための一体的な取組みは不十分であり、もったいない状況です。
こうした分野間の分断は、地域計画でも課題をもたらします。例えば電力需給の議論で一律の削減が求められることがありますが、高齢化が進み熱中症リスクの高い地域では、かえって健康被害につながる恐れがあります。介護医療データによる要介護者の分布や在宅医療機器の利用状況を、エネルギーやインフラのデータと組み合わせて判断することが重要です。一つの分野だけを見ていては、地域の実情に合った政策判断は難しいのです。
このような俯瞰的視点は内閣府でこそ担える役割であり、経済・財政一体改革推進委員会のような場で分野を横断して議論し続ける意義は大きいと考えています。継続的な議論を通じて、政策分野に共通する構造的課題を共有し、改善につなげる土壌が整います。
社会保障分野におけるEBPMの実践と今後の可能性
――社会保障分野は、皆保険制度下のデータヘルス計画策定やNDBの構築等、EBPMに取り組む環境整備が最も進んでいる分野の一つと思います。現在の取組や実践例、今後の課題について教えてください。
(古井氏)データヘルス計画は「データを起点に課題を特定し、実施した事業効果を評価し、改善につなげる」という枠組みを制度化したもので、行政領域ではEBPMが本格的に組み込まれた代表的な政策です。生産年齢人口の減少が進む中で、国民皆保険制度を持続可能にするには、予防・健康づくりを通じて国民のQOLを高め、医療資源の最適配分を図ることが不可欠です。
これまで疾病予防に関しては、寿命延伸が本当に国民のWell-being向上につながるのか、医療費適正化に寄与するのかといった本質的な論点が曖昧なまま政策が進められてきました。医療費適正化対策としても、病床削減や公定価格の調整等限られた手法に頼らざるを得ませんでした。今後のEBPMでは、データを起点に既存施策のどこに構造的課題があるのかを可視化し、どのような施策が課題解決につながるのかを検証することが求められています。
EBPMアクションプランに設定されたKPIは、全国の保険者(1,300健保組合、1,700市町村等)が策定したデータヘルス計画に「共通の評価指標」として導入されました。これにより、各保険者はNDB・KDBを活用して保健事業の実績を他組合・自治体と比較評価ができ、効果を上げる要因を同定し、改善につなげやすくなっています。
例えば、健診受診率向上のための知見を抽出した事例があります。予防施策の起点となる特定健康診査では、住民に対して受診意向調査を行っている自治体で受診率が高いことが分かりました。これは事前に受診予測をして必要な勧奨につなげることや、健診を受けることを当たり前の文化にする意図があるようです。また、「実施期間を長くする方が受診しやすい」という直感とは逆に、期間を短く設定した自治体の方が受診率が高いという結果が得られました。期間が限定されることで住民の行動が促される、あるいは短期間に周知・勧奨を集中できるためと考えられます。
KPIの導入は、現場で曖昧になりがちだった効果の可視化を可能にし、政策の質向上に寄与します。昨年、東京大学が実施した「都道府県向けリーダーシップ・プログラム」では、5県(約100自治体)の同意を得て過去5年間の推移を分析しました。その結果、保健事業が進んだ自治体ほど住民の予防行動が促進され、これまで未受診だった人が適切に受診することで外来医療費は増えますが、入院医療費が減少し、最終的には総医療費が小さくなるという傾向が示されました。
予防が直接的に医療費を削減する訳ではありませんが、今回の分析は、必要な疾病管理(外来)を適切に増やし、重症化を防ぐことで医療費の構造自体が変わり得ることを示した点で意義があります。
日本は国民皆保険制度のもと、政策を全国的に実施するための人材とデータを備えており、EBPMを本格運用できる環境がここまで整った国は国際的に見ても極めて稀です。来年度以降、政策効果の検証がさらに進むことが期待されており、その成果は国内外にとって「宝の山」となるはずです。
実際、糖尿病患者が多いアジア諸国では、日本のデータヘルス政策への関心が高く、来年度から日本の手法を導入したいという国もあります。日本発のEBPM手法から得られた知見が「Science Diplomacy」として活用され、国際的な政策共創の基盤になる可能性があります。
また、日本の市場規模は1億人程度ですが、アジア諸国と協創すれば数億人規模のデータヘルス・プラットフォームに拡大します。これにより政策運営コストが効率化するだけでなく、多様な健康課題を実証するフィールドとしての価値が高まり、製薬企業等の国際的な投資が呼び込みやすくなります。実証研究や新たなソリューション開発が加速し、政策としての持続性も高まると考えられます。
ただ、EBPMの枠組みは同じでも、実装方法は国ごとに工夫が必要です。あるアジアの国では、国民皆保険制度が定着する過程で国民の受診行動が急増し、医療費が急激に増加しています。日本が協力してレセプトデータを分析すると、人工透析導入後2年以内に多くの患者が亡くなっていることが分かりました。体系的な予防システムがなく、重症化してから受診するためと推察されます。このような状況であれば、日本のように集団に広く網をかけるやり方ではなく、まずは高リスク層への集中的な勧奨から始め、効果を確認しつつ徐々に対象を広げるアプローチが必要です。
これは国内でも同様で、成功事例の単純な横展開ではうまくいきません。現在約300自治体に「保健事業カルテ」(事業のやり方と実績値を突合し効果的な知見を抽出する様式)を活用いただいていますが、人口規模、疾病構造、医師会との連携等、地域特性に応じた対処法にはさまざまなパターンがあります。今後は、条件が類似した自治体に対して、効果が検証された政策要素を組み合わせて適用するアプローチが有効だと考えています。
さらに、EBPMの推進は行政だけでなく民間事業者にも波及効果があります。これまで民間事業者は各自治体から異なる仕様で保健事業やデータ分析を受託しており、評価手法もバラバラで、効果検証を十分に行えない状況でした。今後、EBPMを導入し共通の指標で横断的に評価できるようになれば、事業成果を同一指標で測定でき、民間側はサービスの基盤となる「メインフレーム」を共通化しやすくなります。これにより民間の知見を集約しやすくなり、新たなソリューション開発や実装にもつながるでしょう。
これまで行政や保険者が意図的に複雑な仕様を求めていたわけではなく、「やり方が分からなかった」ために独自方式が乱立していたというのが実情です。共通のEBPMという共通のフレームワークが整うことで、民間事業者も質向上により注力できるようになりますし、いわゆるグローバルニッチ分野でも、尖った商品やサービスが生まれやすくなる環境が整っていくと思います。
EBPMへの期待と可能性
――経済・財政一体改革に資する質の高いEBPMを行っていく上では、現場における施策の実装につなげることも重要と考えます。今後、どのような取組を行うことが必要だと考えますか。
(古井氏)データヘルス政策にEBPMを実装しやすかった理由の一つは、政策の標準化が始まっていたことです。どの市町村でも、健康保険組合でも、施策の構造やプロセスが同じ枠組みで進められていたことが、実装を後押ししました。
標準化によって業務が効率化されると、現場に考える余裕が生まれます。そのためには、ツールの存在も重要です。例えば「データヘルス計画標準化ツール®」(市町村向け)や「データヘルス・ポータルサイト」(健康保険組合向け)、「保健事業カルテ」等を活用することで、作業プロセスが明確化され、すべてをゼロから検討しなくてもよくなりました。こうした基盤整備が、EBPMを実行しやすい環境を作っています。
一方で、厚生労働省の補助金や加算減算制度等のインセンティブが、EBPMの取組みと十分に連動しているとは言えません。データに基づき改善を促す方向に制度的インセンティブを再設計する必要があります。
また、業務効率化で生まれる余裕を人材育成に振り向けることも極めて重要です。政策を実装するには現場の人手と知恵が不可欠であり、施策の受容性を高めるには、地域の特性を知り、日頃から庁内や地域の関係機関とコミュニケーションをとっておくことが必要です。
自治体や保険者での人材育成は基本的にOJTですが、政策分野を横断する目利きやコーディネート機能が加わると、育成効果は高まります。骨太方針2020後に厚生労働省が始めた「都道府県ヘルスアップ支援事業」では、データヘルス計画の標準化やそのための人材育成を進める要素を組み込みました。これを受け、東京大学では専門知見と教育機会の提供を核とする「都道府県向けリーダーシップ・プログラム」を開始し、これまでに13都道府県が参加しています。2年程度取り組むと、施策を安定して運営し、次の担当者に引き継ぐ人材が育成されます。
政策と現場の双方を理解する人材は欠かせませんが、市町村単独で育成することは難しい場合があります。その際は、都道府県に専門的な人材を配置することで、市町村への助言や支援が可能になります。都道府県として実務研修やOJTを組み合わせ、人材育成を図ります。
2018年の制度改正で共同保険者となった都道府県には、広域的役割を担う流れができています。「都道府県向けリーダーシップ・プログラム」では、都道府県が方針を示し、市町村を支援することで地域格差の是正を目指しています。47都道府県で人材育成が進めば、市町村支援を通じて全国的な底上げが期待できます。実際、参加県では施策の標準化が進み、進捗管理と知見共有がしやすくなった結果、市町村間格差が縮小し、県全体のレベルアップにつながっています。なお、人材を活用するやり方は都道府県によって異なります。県で育成した人材が直接市町村を支援する県もあれば、二次医療圏単位で保健所や国保連合会等による市町村支援を促し、県は後方支援を担うという手法をとる県もあります。いずれにしても、その県のこれまでの歴史や地域資源との関係に応じて、地域全体に広げていく形が実現しています。
――データの分析に関して、行政内部で因果推論等の高度な分析ができる職員を育成するべきか、それとも、研究者と行政が継続的に連携しながら分析を進めるべきか、どちらが現実的でしょうか。
(古井氏)データの集計・分析そのものを必ずしも行政が担う必要はありません。国保分野では国民健康保険団体連合会がKDBの運用と集計・分析を実施し、健保分野では社会保険診療報酬支払基金が担ってきました。詳細な分析や各保険者の個別分析の多くは、これまで民間に委託してきました。しかし、分析手法やアウトプットがまちまちで、施策に活かしにくいという課題がありました。
ところが、データヘルス計画の標準化が進んだことで、計画様式や評価指標が統一され、国保連や支払基金はデータヘルス計画のPDCAサイクルに沿って、健康課題の抽出、事業の効果測定に必要なデータ分析を行えばよい形になりました。分析の“型”ができたことで、分析プロセス自体の標準化も可能です。私たち大学も、自らが分析するのではなく、公的機関及び民間事業者の機能を育てる方向に舵を切っています。
一方で、外部機関が担うことは難しく、自治体や保険者にどうしても必要な機能として残るのは、分析結果を現場に適用する部分です。専門的には、例えば高医療費に対して、その構造やどの要素が影響していそうかといったところまでは分析によって判明します。しかし、地域の特性を鑑みて、複数の要素のうち、どれに対してどのように介入することができそうか、現場で受容性が高いかといった事情は、現場の方でなければ分かりません。地域文化や生活様式、職場環境等と結びついているケースが多く、これには現場の判断が不可欠です。
ただし、こうした背景にも一定のパターンがあります。血圧が上昇する背景として数パターンが整理できますし、それぞれに対応する介入策も準備できます。その候補を提示し、どれを選ぶかは現場が判断する。こうした協働モデルが現実的です。
人材育成は基本的にOJTの要素が大きく、業務の知識・経験に加えて、関係機関とのコミュニケーションを含めると、1年だけでの習得はなかなか難しく、3年程度は同じ担当として関わってもらうことが望ましいと考えています。市町村の担当者に対しては、その期間で都道府県や専門家が後方から支える形で、「このあたりはこう進めるとよい」と助言をする。専門家としては、47都道府県の支援・評価委員等のような形で設置するのが望ましいと思います。
このように、データの分析自体は、国保連、支払基金や民間事業者等外部機関が担えますが、その結果を実装していく工夫については、現場の担当者が進めていけるよう都道府県や私たち専門家が伴走する形が必要です。データの分析から実装までをすべて行政に任せて完結させることは、現実的ではありません。
――最後に、若手行政官へ一言メッセージをいただければと思います。
(古井氏)これまで現場では、限られた人員で日々の業務を必死にこなさざるを得ず、大きな負担を感じてきたと思います。しかし、EBPMの取組みが進み、例えば市町村の施策によって住民の予防行動が促され、一時的に外来医療費が増えたとしても、結果として入院医療費が減少する、といった効果が可視化されるようになると、「どこに向かって施策を進めればよいのか」が明確になります。これは現場にとって大きなやりがいになるはずです。
そのためにも、EBPMを着実に進め、その効果を現場に確実に還元することが重要です。この積み重ねを数年続けていけば、日本国内にとどまらず、アジア等海外にも貢献できる知見が蓄積されていくでしょう。科学的知見に基づく政策形成を通じて、「Science Diplomacy」の形で国際社会に貢献すること。それが日本の大きな強みになると考えています。
左から 内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官補佐 梅田 政徳、同付参事官 小堀 厚司、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授 古井 祐司、同付 藤原 裕美子
(本インタビューは、令和8年1月26日(月)に行いました。所属・役職はインタビュー当時のものです)