経済分析第203号経済分析第203号(特別編集号)

令和3年7月
(エディトリアル)
内閣府経済社会総合研究所 2019-2020 年度国際共同研究
超高齢社会における制度と市場の関係性の在り方に関する研究WG 主査序文
松井 彰彦(東京大学大学院経済学研究科教授)
(論文)
― 第1部 現場を変える ―
待機児童問題:マッチング理論によるアプローチ
鎌田 雄一郎(カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェロー、
NTTリサーチ サイエンティスト)
小島 武仁(東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学マーケットデザインセンター・センター長)
当事者研究の導入が職場に与える影響に関する研究
熊谷 晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
喜多 ことこ(東京大学先端科学技術研究センターユーザーリサーチャー)
綾屋 紗月(東京大学先端科学技術研究センター特任講師)
制度の隙間をなくす ~特別制度から一般制度への昇華~
松井 彰彦(東京大学大学院経済学研究科教授)
川島 聡(岡山理科大学経営学部准教授)
― 第2部 医療制度を考える ―
不確実性の下での良き意思決定 適切な医療とは?
井伊 雅子(一橋大学国際・公共政策大学院教授)
原 千秋(京都大学経済研究所教授)
診療・受療行為の習慣的な地域差と情報提供の在り方に関する分析
野村 裕(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)
堀 展子(内閣府経済社会総合研究所特別研究員)
制約付きマッチングの理論の総説と日本における研修医マッチングへの応用
鎌田 雄一郎(カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェロー、
NTTリサーチ サイエンティスト)
小島 武仁(東京大学経済学部教授、東京大学マーケットデザインセンター・センター長)
― 第3部 歴史に学ぶ ―
旧制高等学校の入学者選抜制度改革:マッチング理論とEBPMの観点からの考察
森口 千晶(一橋大学経済研究所教授)
明治期日本の医学制度と「難病」 ~帝国陸海軍の脚気対策~
松井 彰彦(東京大学大学院経済学研究科教授)
村上 愛(ノースウェスタン大学経済学部)
― 第4部 社会を俯瞰する ―
超高齢社会の再分配と包摂的成長
白波瀬 佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
自助・共助・公助の境界と市場
飯田 高(東京大学社会科学研究所教授)
労働市場内の包摂性の評価に関する研究 ―日本の障害者雇用に焦点を当てて―
星加 良司(東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター准教授)
西田 玲子(東京大学先端科学技術研究センター特任研究員)

研究報告会と経済社会総合研究所の概要


(要旨)

(論文)

待機児童問題:マッチング理論によるアプローチ

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェロー、NTTリサーチ サイエンティスト
/鎌田 雄一郎

東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学マーケットデザインセンター・センター長/小島 武仁

本論文では、待機児童問題解決の制度設計を試みる。保育士と児童の比率に関する配置基準など現実に存在する様々な制約を取り扱うため、我々は新しい「制約付きマッチング」のモデルを提案・考察する。規範的に重要と思われる公平性を満たすマッチング(公平マッチング)、特に公平マッチングのうちで全ての応募者にとって同時に最適となるマッチング(応募者最適公平マッチング)が議論の中心となる。我々の主要定理では、応募者最適公平マッチングの存在を保証するための、制約に関する必要十分条件を与え、特に保育園の制約はこの条件を満たすことを示す。

理論分析の結果をもとに、保育園制度の改善案を検討する。具体的には、応募者の保育園に対する希望順位や優先順位に関する自治体の行政データを用いて、保育園の制約のもとでの応募者最適公平マッチングのパフォーマンスを測定する。応募者最適公平マッチングでは現行の制度と比べ希望先の保育園に入れない児童が減少し、更に、より多くの応募者が、より希望順位の高い保育園へ入園できることがデータで確認された。以上の分析により、応募者最適公平マッチングメカニズムを導入することが日本の待機児童問題解消に資すると考えられる。

JEL Classification Codes: C70, D47, D61, D63

Keywords: 制約付きマッチング、公平性、待機児童問題、保育園


当事者研究の導入が職場に与える影響に関する研究

東京大学先端科学技術研究センター准教授/熊谷 晋一郎

東京大学先端科学技術研究センターユーザーリサーチャー/喜多 ことこ

東京大学先端科学技術研究センター特任講師/綾屋 紗月

本研究では障害のある人々が包摂される職場の条件を考えるために、まず日米の障害者雇用の現状と課題を概観し、「組織の利益にもつながりうる、公私にわたる相互理解と相互信頼に基づく、障害の有無を超えた普遍主義的配慮の職場内実装と、その公的サポート」が必要であることを述べた。そして事例検討と先行研究のサーヴェイを行い、普遍主義的配慮が満たすべき条件を記述した概念として「高信頼性とjust culture」「心理的安全性」「謙虚なリーダーシップ」「知識共有」を抽出した。次に、こうした概念群と整合的なプログラムの候補として当事者研究に着目した。更にこれら概念で表される文化が組織に実装されている度合いを計測するための日本語版ツールを開発した。更にフィージビリティスタディとして企業向け当事者研究導入講座を開発し提供した。受講生の声から、当事者研究への深い理解が実感とともに得られたことや、職場に当事者研究を導入することで「環境改善・組織変革」「課題解決」「関係作り」など、上記の概念と整合的な効果が期待できるというコメントが得られた。一方で、職場に当事者研究を導入しようとすると「導入前の心理的安全性を確保しにくい」「時間的・感情的余裕の確保が困難」「導入のモチベーションを高めることが困難」「機密情報や個人情報などの保護が課題」「ファシリテーションが難しい」といった障壁などが生じることが示唆された。当事者研究を導入している3つの事例を検討した結果からも同様の効果と課題が見て取れた。これらの知見から、職場に当事者研究を導入することの効果を期待できるとともに、その課題が明らかになった。その課題を乗り越えるためにも、今後は介入研究を通じた効果検証が必要であることが示唆された。

JEL Classification Codes: D63, I38, J24, J28, J71, L53, M14, O15

Keywords: 障害者雇用、高信頼性組織、心理的安全性、謙虚なリーダーシップ、知識共有、当事者研究


制度の隙間をなくす ~特別制度から一般制度への昇華~

東京大学大学院経済学研究科教授/松井 彰彦

岡山理科大学経営学部准教授/川島 聡

障害者権利条約は、ほぼ非障害者のみを対象としてきた一般制度を非障害者・障害者を対象とした、みんなのための一般制度として再構築することを求めている。本稿では「レラバント(本質的)」と「イレラバント(非本質的)」という2つの概念を対置させることでこの問題を考察する。身分による差別や女性差別を禁止するために身分・ジェンダーを事柄の非本質としたように、障害を非本質的なものとすることが障害者差別禁止では求められる。法的な差別だけでなく、慣習的な差別も解決しなくてはならない。本稿では、歴史的・構造的な差別を受けてきた集団としての障害者の存在を事柄の本質とするアファーマティブ・アクションの位置付けも論じ、一般制度に障害者を組み入れるための特別制度の役割を考察する。具体的な事例として東京大学での在宅就労制度をとりあげ、障害者のための特別制度として導入された当該制度が一般制度に昇華されていく過程を追う。この昇華を通じて、社会全体の質もまた向上していくと結論される。

JEL Classification Codes: J7, K38, Z18

Keywords: 一般制度と特別制度、レラバント(本質的)とイレラバント(非本質的)、在宅就労制度


不確実性の下での良き意思決定 適切な医療とは?

一橋大学国際・公共政策大学院教授/井伊 雅子

京都大学経済研究所教授/原 千秋

本論文の目的は、臨床検査に基づく施術や政策の選択を不確実性下の意思決定問題として定式化し、ミクロ経済学における分析手法を援用することで、より適切な施術や政策の選択に資する点にある。特に乳がん検診とCOVID-19(新型コロナウイルス)のPCR検査を取り上げるが、両者には大きな違いがある。それは、COVID-19のPCR検査にはまだ十分なデータの蓄積がないので、感染(罹患)確率が不明な点である。そこで、本論文ではこの状況を、事前確率が一意に定められない環境での曖昧さ回避的主体の意思決定問題として分析する。既存の文献では、曖昧さ回避的な意思決定主体が検査結果などに基づいて確率評価をアップデートする方法が複数提唱されているが、本論文では、動学的一貫性と帰結主義という2つの条件を満足するアップデート方法をとり上げ、合理的な意思決定への道筋を明らかにする。特に、PCR検査に関して妥当と思われる感度と特異度を仮定すると、動学的一貫性を課すことで、想定すべき偽陽性の(事前)確率の範囲の上限値が、そうでない場合の6倍超大きいことを示す。

JEL Classification Codes: D81, I12, I18

Keywords: 意思決定、偽陽性、曖昧さ


診療・受療行為の習慣的な地域差と情報提供の在り方に関する分析

内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官/野村 裕

内閣府経済社会総合研究所特別研究員/堀 展子

日本国内の一人当たり医療費には地域差が見られ、都道府県単位では高い県と低い県で3割程度の差がある。本稿は、この地域差を生じさせている要因について、診療者・受療者の行動をミクロ的に根拠付けるデータ-医科レセプトデータと全国消費実態調査の個票データ-を用いたパネルデータ分析によって、需要側要因、供給側要因、その他要因に分解して、それぞれの影響の程度を析出することを目的とする。分析の結果、3つの要因は、いずれかが特に強いとは言えないこと、またその他要因に含まれる数量的に測定困難だが固定効果モデルによってコントロールされる地域の固有差の影響が小さくないこと、この地域の固有差は供給側要因と相関性が高いことが導出された。また、近年利用可能となった豊富な個票データは、医療サービス市場における診療者と受療者の間に存在する情報の非対称性に起因する非効率性を緩和することに利活用できる可能性が示唆された。

JEL Classification Codes: I11, I12, D8

Keywords: 医療費、情報の非対称性、Two-partモデル


制約付きマッチングの理論の総説と日本における研修医マッチングへの応用

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェロー、NTTリサーチ サイエンティスト
/鎌田 雄一郎

東京大学経済学部教授、東京大学マーケットデザインセンター・センター長/小島 武仁

我々は、いくつかの論文にて制約付きマッチング問題の理論を構築してきた。本論文の目的は、2つある。第一に、本稿は、これらの論文に含まれる結果を整理し直す。第二に、その整理された結果に基づき、我々は日本の研修医マッチングに関する政策提言を行う。

制約付きマッチングとは、何かしらの外生的な制約が課されたマッチング問題を指す。代表的な例としては、日本における研修医マッチングがある。ここでは、各47都道府県それぞれに、マッチできる研修医数の上限が設定された。我々の理論はこの制約を守りながら効率的に医師を病院にマッチさせるメカニズムをデザインした。我々は、この例への応用にとどまらず一般的に応用できる制約付きマッチングの理論を構築した。

JEL Classification Codes: C70, D47, D61, D63

Keywords: 制約付きマッチング、研修医マッチング、効率性、マーケットデザイン


旧制高等学校の入学者選抜制度改革:マッチング理論とEBPMの観点からの考察

一橋大学経済研究所教授/森口 千晶

政府が高等教育に投じることができる資源が限られているなか、その資源を有効かつ公平に配分するためには、どのような方法で入学者を選抜すべきなのか。本研究では、明治後期から昭和初期にかけての官立高等教育(旧制高等学校・帝国大学)の入学者選抜制度の変遷に光を当て、どのような目的で選抜制度が設計され、実装されたのかを、経済学のマッチング理論の観点から考察する。さらに、当時および現在に利用可能なデータを用いて、度重なる制度改革の際に争われた論点は実証的にみてどの程度正しかったのか、当時の政策設計はどの程度エビデンスに基づいて立案されていたのかを検証する。

JEL Classification Codes: D02, I23, I28, N35, O15

Keywords: 学校選択、能力主義、マッチング・アルゴリズム、教育格差、階層移動


明治期日本の医学制度と「難病」 ~帝国陸海軍の脚気対策~

東京大学大学院経済学研究科教授/松井 彰彦

ノースウェスタン大学経済学部/村上 愛

本研究では、医学制度を、医学者のあいだで「共通に了解されている知識を確定させるゲームのプレイの仕方(=慣習)」と定義し、医学制度が医学研究に与える影響を考察した。

具体的には、明治時代、国外で陸海軍が脚気惨害に直面した後、脚気対策の方針を決めていた医務局長が次にどのような方針をもった人物を後継者として選んだのかを分析する。当時、脚気対策の方針としては大きく分けて2つあり、通説として白米を食べても構わないとする説(白米説)と脚気予防として白米の代わりに麦飯を与えるべきという説(麦飯説)が存在していた。この白米説と麦飯説をめぐって、陸軍と海軍で異なる医務局長人事がとられたことにより脚気対策の方針および結果が大きく異なるに至った。陸海軍の医務局長人事を歴史的・理論的に分析することで、医学制度が難病に関する知識の集約に与える影響を考察することが本分析の目的である。

以上の分析に当たり、ゲーム理論を用いる。具体的には継承ゲームと呼ばれるゲームを構築する。プレイヤーは先任者1と後継候補者2名からなり、先任者が候補者の中から後継者を選ぶ。明治期日本の陸軍および海軍では医務局の局長は後継者を実質的に指名することができ、継承ゲームがプレイされていた。このようなゲームのもとで、海軍では優秀な後継候補者が自身の情報に基づいた施策を打ち出す均衡がプレイされた。情報が正しく利用されるためには(定説を覆すには)、上司を上回って部下が優秀でなければならないことが示された。一方、陸軍では先任者に同調する均衡がプレイされた。同調均衡においては候補者の情報は失われる。日清戦争のみならず日露戦争においても麦飯を積極的に支給できなかった陸軍の脚気惨害は同調均衡がもたらしたものとみることができる。しかし、いずれの均衡でも情報の集約は起きない。継承ゲームにおいては、1人の情報しか用いられず、貴重な情報を無駄にすることとなる。このように、医学制度が難病に関する知識の集約を妨げることがありうることを示した。

JEL Classification Codes: D80, I18, N30

Keywords: 日本陸海軍の脚気対策、継承ゲーム、医学制度と難病


超高齢社会の再分配と包摂的成長

東京大学大学院人文社会系研究科教授/白波瀬 佐和子

本研究の目的は、公的移転と私的移転の観点から日本の再分配機能に着目して検討し、包摂、ひいては包摂的成長について考察することにある。日本の再分配機能は医療、年金に傾倒する社会保障制度を背景に、高齢層に大きく偏ることはすでに指摘されているところである。また、日本的福祉社会と評される社会保障制度にあって、家族による第一義的生活保障機能の大きさが指摘される。そこで、本稿では、年齢差のみならず、世帯構造やコーホート差に着目して、再分配機能の実態を検討する。本分析で用いたデータは厚生労働省が実施する国民生活基礎調査である。ジニ係数や相対的貧困率の算出にあたっては、総所得から社会的移転を除く当初所得と、当初所得に社会的移転を加えて社会的拠出金を差し引いた可処分所得について、世帯人員を平方根で除した等価値を用いる。

本研究の主なポイントは3つある。第1に、日本の再分配効果はライフステージの違い(具体的には年齢層の違い)によって大きく規定され、個々人が所属する世帯構造や氷河期世代と呼ばれる特定コーホートの労働市場における不利さは再分配機能の観点から十分に考慮されているわけではない。第2に、急激な人口高齢化は高齢世帯主の女性化を生み、女性世帯主比率の高さは高い貧困率と密接に関係している。女性が世帯主となるということが社会保障制度として十分想定されておらず、その想定外の状況が高い貧困率と結びつき経済的制裁を受けている。事実、母子家庭や高齢女性の一人暮らしの高い貧困率への対応が再分配の観点から十分対応されているとは言い難い。最後に、私的移転については、親や子が経済的に困窮している状況は世代を超えて私的に支援するという構図は確認されなかった。むしろ、親から子への教育を通した人的資本投資が確認され、親から子への相対的なリスク回避機能が提供されている状況が仕送りを通して垣間見られた。

以上、当初所得と再分配所得に着目した再分配の状況から見る限り、年齢のみならず、世帯構造やコーホート格差、さらにはジェンダー格差を考慮したより包摂的な対応の検討が求められる。1時点的な富める者から貧しい者への再分配という構図を超えて、教育や就労といった機会の平等という観点から再分配機能をより発展的に包摂の概念を捉えることが重要である。

JEL Classification Codes: D22, D25, D81

Keywords: 高齢化、世帯変動、再分配効果、ジェンダー格差


自助・共助・公助の境界と市場

東京大学社会科学研究所教授/飯田 高

「自助・共助・公助」という言葉は、社会保障や防災など社会的なリスクの負担が問題となる場面で登場する。本稿では、日本の社会保障においてこの言葉がどのように解釈されてきたかを振り返った後、付随して援用される「補完性原理」について検討する。この検討を通じて、「原則として自助、自助では解決できないときは共助、そして共助でも解決できないときにはじめて公助」と考える必然性は乏しいことを主張する。次に、「互助」または「共助」の担い手について、いくつかの調査結果を使いながら考察する。そこでは、「自助・共助・公助」論で正面から取り上げられていなかった市場が新たな「互助」や「共助」の担い手になりうる、ということを示す。その場合、市場を「自助・互助・共助・公助」の階層構造に統合することなく、冗長性をもたせた制度設計を行うことが重要である旨もあわせて指摘する。

JEL Classification Codes: I30, K30, P46

Keywords: 補完性原理、法制度、市場、互助、冗長性


労働市場内の包摂性の評価に関する研究 ―日本の障害者雇用に焦点を当てて―

東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター准教授/星加 良司

東京大学先端科学技術研究センター特任研究員/西田 玲子

日本の障害者雇用政策は、障害者を「労働市場へと包摂」することに比重を置いてきた。そのなかで、2013年の障害者雇用促進法の改正では、差別禁止概念が導入され、「労働市場における包摂」にも変化が生じることが期待された。しかしながら、改正法の施行後も、障害者雇用における職務分離は維持ないし促進されているため、本稿は、「労働市場における包摂」をテーマに問題分析を行なった。本稿では、「社会的包摂」概念の利点を引用し、労働市場における「包摂/排除」を、「統合/分離」と「参加/疎外」に分解し、市場内の「包摂性」が最も高い状態を「統合&参加」とする枠組みを用いている。雇用分野では教育分野のように「統合」か「分離」かが大きな問題関心とならず、「統合&疎外」よりも「分離&参加」が優勢であること、その原因は、雇用率制度を中心とする法制度、学校教育における職業教育にあることを明らかにした。また、障害者に関しては非障害者との空間的、制度的近接性(「統合」)を進めると、労働によって得られる達成の程度(「参加」)が下がるというジレンマ状況が、「統合&参加」を困難にしているとの想定を起点として分析を進めたところ、むしろ、既存の仕組みを前提にした議論が「統合&疎外」と「分離&参加」の根底にあり、現在の労働政策である「働き方改革」や「合理的配慮」が、変化をもたらす可能性について本稿では論じている。

JEL Classification Codes: J70, J71, J78, M14

Keywords: 障害者雇用、労働市場における包摂


研究報告会と経済社会総合研究所の概要


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きますにて刊行しております。

全文の構成

(エディトリアル)

内閣府経済社会総合研究所 2019-2020 年度国際共同研究
超高齢社会における制度と市場の関係性の在り方に関する研究WG 主査序文PDFを別ウィンドウで開きます
(PDF形式 333 KB)

  1. 1
    松井 彰彦

(論文)

待機児童問題:マッチング理論によるアプローチPDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 753 KB)

鎌田 雄一郎・小島 武仁

  1. 12
    1.はじめに
  2. 15
    2.理論分析
  3. 19
    3.認可保育園の分析
  4. 23
    4.結び
  5. 25
    参考文献
  6. 26
    論文に対するコメント

当事者研究の導入が職場に与える影響に関する研究PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.12 MB)

熊谷 晋一郎・喜多 ことこ・綾屋 紗月

  1. 30
    1.はじめに
  2. 31
    2.先行研究とそれを踏まえた問題設定
  3. 41
    3.研究1:企業向け当事者研究講座開発と評価
  4. 45
    4.研究2:導入事例の検討
  5. 51
    5.研究3:日本語版尺度の作成
  6. 53
    6.結果の要約と今後の課題
  7. 54
    参考文献
  8. 57
    論文に対するコメント

制度の隙間をなくす ~特別制度から一般制度への昇華~PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 814 KB)

松井 彰彦・川島 聡

  1. 61
    1.序
  2. 63
    2.一般制度からの排除と一般制度への包摂
  3. 71
    3.ポジティブ・アクション・社会福祉施策としての障害者就労制度
  4. 76
    4.特別制度から一般制度への昇華:東京大学の在宅就労制度
  5. 82
    5.結語
  6. 83
    参考文献
  7. 84
    論文に対するコメント

不確実性の下での良き意思決定 適切な医療とは?PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 3.46 MB)

井伊 雅子・原 千秋

  1. 88
    1.はじめに
  2. 89
    2.臨床の例
  3. 92
    3.感染確率が不明なとき
  4. 115
    4.結論
  5. 116
    参考文献
  6. 117
    付論
  7. 121
    論文に対するコメント

診療・受療行為の習慣的な地域差と情報提供の在り方に関する分析PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.49 MB)

野村 裕・堀 展子

  1. 125
    1.はじめに
  2. 128
    2.消費支出パターンに表れる生活習慣と医療費の地域差
  3. 135
    3.消費データ/医療データを用いた医療費の地域差の分析の比較
  4. 141
    4.診療実日数・診療行為の習慣的な地域差
  5. 147
    5.考察
  6. 149
    参考文献
  7. 151
    付論1 推定用データの作成方法
  8. 153
    付論2 分析モデルの特定化
  9. 154
    論文に対するコメント

制約付きマッチングの理論の総説と日本における研修医マッチングへの応用PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 849 KB)

鎌田 雄一郎・小島 武仁

  1. 159
    1.はじめに
  2. 163
    2.モデル
  3. 169
    3.主要な結果
  4. 177
    4.おわりに
  5. 179
    参考文献
  6. 181
    論文に対するコメント

旧制高等学校の入学者選抜制度改革:マッチング理論とEBPMの観点からの考察PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.62 MB)

森口 千晶

  1. 186
    1.問題の所在
  2. 187
    2.歴史的および制度的背景
  3. 191
    3.入学者選抜制度のデザインとその目的
  4. 200
    4.入試制度改革の短期的影響
  5. 205
    5.入学者選抜制度改革の長期的影響
  6. 209
    6.結び
  7. 210
    参考文献
  8. 212
    論文に対するコメント

明治期日本の医学制度と「難病」 ~帝国陸海軍の脚気対策~PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.44 MB)

松井 彰彦・村上 愛

  1. 216
    1.序
  2. 220
    2.帝国陸海軍における脚気惨害
  3. 236
    3.継承ゲーム
  4. 247
    4.結語
  5. 248
    参考文献
  6. 250
    論文に対するコメント

超高齢社会の再分配と包摂的成長PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.08 MB)

白波瀬 佐和子

  1. 254
    1.はじめに:本研究の背景
  2. 259
    2.先行研究とそれを踏まえた問題設定
  3. 263
    3.分析データ
  4. 264
    4.実証分析結果
  5. 276
    5.結論と考察:ポストコロナ禍の包摂型未来の構築に向けて
  6. 279
    参考文献
  7. 282
    論文に対するコメント

自助・共助・公助の境界と市場PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 918 KB)

飯田 高

  1. 287
    1.はじめに
  2. 289
    2.「自助・共助・公助」の変遷
  3. 294
    3.補完性原理再考
  4. 298
    4.市場の位置づけ
  5. 305
    5.要約と今後の課題
  6. 305
    参考文献
  7. 308
    論文に対するコメント

労働市場内の包摂性の評価に関する研究 ―日本の障害者雇用に焦点を当てて―PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 1.16 MB)

星加 良司・西田 玲子

  1. 314
    1.はじめに
  2. 314
    2.本稿の研究目的と方法
  3. 316
    3.分析結果1:ジレンマを助長する制度的・社会的要因
  4. 323
    4.分析結果2:「統合」と「参加」のジレンマ状況の再考
  5. 332
    5.結論
  6. 332
    6.残された課題
  7. 333
    付論 分析資料
  8. 338
    参考文献
  9. 341
    論文に対するコメント

研究報告会と経済社会総合研究所の概要PDFを別ウィンドウで開きます(PDF形式 146 KB)